Case Study #2

入れ子の家――壁を並べ、屋根を重ねる
地域コミュニティを、屋内に誘う

ニュータウンのコミュニティの受け皿になるような場所を、家の中につくりたい。そうした想いを反映するため、プライベートの閉じた空間を、地域に開かれた 大きな空間が覆っている。

作品 「ハウス・イン・ニュータウン」
設計 能作淳平

取材・文/橋本 純
写真/藤塚光政

  • 白く塗られた鉄骨の覆いの中に、ラーチ合板の木箱が立っている。ダイニングや寝室は木箱の中にある。

ニュータウンに住むことを望んだ建主

「ハウス・イン・ニュータウン」は、神奈川県藤沢市郊外の新興住宅地に立つ核家族住宅である。建主のFさんは横浜市内の大手企業に勤めるサラリーマンで、夫人とふたりの子どもの4人暮らし。3年前、38歳でこの家を建てた。能作淳平さんとの出会いは、直接本人ではなく、Fさんと能作さんの母が共通の趣味をもつ知人だったことがきっかけだった。
 敷地探しから相談にのった能作さんは、多様な人が住んでいる街がよいだろうと考え、変形敷地であってもそういう街の残余に入り込むことを勧めたが、Fさん夫妻には「そういう敷地ではないんです」ときっぱり否定された。彼らは区画整理された新しい敷地を望んでいた。新しい街、ニュータウンに家を構えることを希望した。
 能作さんはこの住宅を発表(『新建築住宅特集』2014年12月号)した際に、「子育てのための地域コミュニティを期待してここに新居を構えた」と記している。これはもちろん能作さんではなくFさん夫妻の期待である。おふたりは、開放的で明るい家がいいという希望をもっていたが、それはニュータウンで地域コミュニティを発動させる装置としての家という希望だった。しかしなぜニュータウンという場所にこだわったのか。
 そこには夫人の強い希望があった。Fさん夫妻はともに広島出身だが、夫人の実家は広島市郊外の戸建て住宅団地、いわゆるニュータウンで、同世代の小さな子どものいる家庭がほぼ同時に家を建てて住みはじめた。彼女はその子たちと一緒の小学校に通学し、帰ったら一緒に公園で遊んで、という充実した幼少期を過ごした。その楽しかった経験を自らの子育てでも実践したいと考えたわけである。

  • 敷地はニュータウンの一画。コミュニティを誘うように、正面は全面ガラス張りになっている。

  • キッチン。木箱と壁のあいだのスペース。高窓からドラフト効果で空気が外に抜ける。

  • 木箱内部の1階ダイニング。床・壁・天井の内部仕上げは、いずれもラーチ合板。

  • 2階ベッドルーム。窓を開けると風が抜ける。

入れ子という選択

 能作さんにゆだねられたのは、そうしたニュータウンでの理想的な子育て環境の空間化だった。そこで、大きくて開かれたスペースをどこかに設けようと提案し、設計を始めた。それを3種類の形式でスタディしている。1階をピロティにして開放し、2階をプライベートゾーンとする案、開放的な大空間とプライベートな個室群を並置する案、そして大空間の中に個室群を入れ子にした案である。前2者はプライベートゾーンとパブリックゾーンの関係が明瞭で図式性が強く、スケールを超えて公共建築などでもよく用いられる構成である。それに対して入れ子案はプライベートゾーンとパブリックゾーンの境界が一面でなく複数面になるため、両者の多様な関係を形成しやすい、変化に対しても有効な図式である。つまり前2者は不変性を前提とした恒久図式、入れ子案は時間性をはらんだ可変図式だといえる。
 この可変的な入れ子構造について能作さんは、独立第1作の「新宿の小さな家」(2011)の住まい手の暮らしぶりから学んだという。空間が小さいゆえに吹抜けに梁だけを架け渡しておき、必要に応じて床を張るという設定を建主がうまく使いこなしているのを見て、建築は生活から一歩引いたところでインフラのようになりえないかと考え、そこからこの構成を編み出した。
 なので「ハウス・イン・ニュータウン」は、断面図を見ると入れ子構造に見えるが、平面的には空間が層状になっているようにしか見えない。それは、入れ子という図式を可変性の図式としてとらえているからで、この住宅も、大きな空間と架構だけがあり、そこに生活に必要な要素が取り付いて住宅となっていくという物語の延長上に位置づけられている。

  • ホール。3層吹抜けの5m以上の天井高さのある空間。このホールに近所の子どもたちが遊びに来ることもあるという。

  • すべり出し窓。

  • 正面。ひな壇状に造成された周囲と合わせ、腰壁を立ち上げている。

生活インフラとしてのスケルトン

 構造は短手5750㎜、長手8900㎜の平面を200㎜角の鋼管柱6本で支え、そこにH型鋼の梁を架け渡す単純な架構で、入れ子の木造に見える部分は造作である。構造設計は大野博史さんで、柱の脚部にはベースプレートを用いずH型鋼の土台をまわして緊結している。柱の転倒に対する抵抗力が増し、柱を細くできた。もちろん構造体が熱橋とならないように、外断熱を採用している。
 北側接道で、東側に駐車場を配し、そこに向かって間口いっぱい4450㎜幅に引き違い戸を設けている。そこから入るとホールである。ホールの南側に2層分の木製ボリュームが位置し、1階にダイニング、2階にベッドルームが入る。ダイニングの南側にキッチンと水まわりが位置する。一見するとプライベートゾーンにはダイニングとベッドルームの2部屋しかないように見えるが、ベッドルームの上、つまり木製ボリュームの屋上部分(サンルーム)を予備室とし、そこに必要に応じて子ども部屋を増設する予定だという。じつは3階建てなのだった。
 子ども部屋をあらかじめ固定的に設定せず、必要に応じてつくり、子どもが独立して出ていったら解体して別の用途にあてる。界壁は主体構造ではないので極論すれば内部の木製造作をすべて撤去して別のかたちに組み替えることもできる。これは入れ子構造を超えて、現代版メタボリズム住宅である。この住宅における入れ子構造とは、内側に強い核を存在させることではなく、入れ子の部分は自由に増改築して生活に適応させることができる構造であることが確認された。

  • ホール。プライベートゾーンの木箱内部に対して、パブリックスペースになっている。

  • 木箱内部のダイニングから、ホールを見る。木箱内部はプライバシーが確保されている。

  • 3階サンルーム。法規上は3階だが、木箱の上にあるため、まるで屋上のようなスペースになっている。

都市と住宅の入れ子関係

 床をモルタルで仕上げたホールは、駐車場、道路から連続した空間で、仕上げやレベルの差を感じさせない、いってみれば敷居の低い空間である。木製造作の側、つまりダイニングから見るとこのホールは、ちょっと家の外、みたいな感じである。子どもの友だちが遊びに来てテントを張って泊まっていったり、テーブルを出して駐車場と一体でバーベキューをやったり、クリスマスのパーティをやったりと、すでに地域コミュニティの核となっている様相である。夫人の「公民館のような」という表現が腑に落ちた。
 この様相は次のように整理することができるだろう。入れ子構造の住宅に内在するウチソトと、ニュータウンのなかの1軒の住宅は、どちらも入れ子構造である。つまり位相関係にある。地域コミュニティは、その入れ子の境界面に生まれる。かつてのニュータウンでは、公園だけでなくそれぞれの家の庭やそこかしこにあった原っぱなどが境界面としてコミュニティスペースとなり住宅地と人々の暮らしをつないでいた。逆に境界面を活性化させることができれば、ニュータウンは今でも夢のニュータウンでいられるのではないか。この住宅はその可能性を開示しているという点でとても現代的かつ示唆的である。

オールド・ニュータウンでの展開

 能作さんは、この後、分譲から約30年経ったオールド・ニュータウンに建つ住宅のリノベーションを手がけた(「あきるのシルバーハウス」、2015)。定年退職した建主の要望は「近所の人たちとお茶が飲める場所がほしい」というものだった。能作さんは、その住宅の庭に2層分の鉄骨のフレームを組んでポリカーボネートで屋根をかけ、外周部にカーテンを吊るした半外部空間をつくった。「ハウス・イン・ニュータウン」のホール概念をもち込んで、住宅の庭を土間空間化したのである。そこは現在、地域の人たちの集会場となっている。
 30年も住んでいれば、お互いに顔は知っているし、挨拶もする。しかし、そこからもう一歩踏み込んだご近所付き合いのための場がニュータウンにはなかった。だから靴を脱がなくても訪ねられる敷居の低い土間空間が地域のコミュニティの触媒となった。客は玄関からではなく、土間を通ってやってくる。そしてなんとかつての玄関は勝手口になった。戦前の家の象徴であった玄関と応接間が、ニュータウンの建設から数十年を経たリノベーションによってようやく解体された。
 私たちが日々取り組むべきことは、近代の核家族住宅の更新である。空間構成の探求はそのためのひとつの手段である。「ハウス・イン・ニュータウン」における入れ子とその展開は、そのひとつの有益な実験結果なのである。

  • そのほかの能作さんの作品
    新宿の小さな家

    2011年
    敷地面積50㎡ほどの小住宅。吹抜けに鉄骨梁を架け渡し、生活の変化に合わせて増床できるようにしている。
    写真提供/ノウサクジュンペイアーキテクツ

  • そのほかの能作さんの作品
    新宿の小さな家

    2011年
    敷地面積50㎡ほどの小住宅。吹抜けに鉄骨梁を架け渡し、生活の変化に合わせて増床できるようにしている。
    写真提供/ノウサクジュンペイアーキテクツ

  • そのほかの能作さんの作品
    あきるのシルバーハウス

    2015年
    約30年前に開発された郊外のニュータウンに立つ住宅の増改築。通り側に鉄骨フレームで、人が集まることができる大きなスペースが増築されている。
    写真提供/ノウサクジュンペイアーキテクツ

「ハウス・イン・ニュータウン」
  • 建築概要
    所在地 神奈川県藤沢市
    主要用途 専用住宅
    家族構成 夫婦+子ども2人
    設計 能作淳平/
    ノウサクジュンペイアーキテクツ
    構造設計 オーノJAPAN
    構造 鉄骨造
    施工 工藤工務店
    階数 地上3階
    敷地面積 124.17㎡
    建築面積 61.88㎡
    延床面積 98.23㎡
    設計期間 2011年7月~2013年5月
    工事期間 2013年6月~2014年6月

  • おもな外部仕上げ(外側の建物)
    屋根      シート防水
    外壁 ガルバリウム鋼板波板
    開口部 アルミサッシ
    おもな外部仕上げ(内側の建物)
    屋根・壁 ラーチ合板 t=12㎜ OS
    おもな内部仕上げ
    ホール・キッチン
    コンクリート t=70㎜ 金ごて仕上げ WAX
    PB t=12.5㎜ AEP
    天井 デッキプレート h=50㎜ UP
    ダイニング・ベッドルーム
    床・壁 ラーチ合板 t=12㎜ OS
    天井 ラーチ合板 t=9㎜ OS
    サンルーム
    ラーチ合板 t=12㎜ OS
    PB t=12.5㎜ AEP
    天井 デッキプレート h=50㎜ UP

Profile
  • 能作淳平

    Nosaku Junpei

    のうさく・じゅんぺい/1983年富山県生まれ。2006年武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部建築学科卒業。06~10年長谷川豪建築設計事務所。10年ノウサクジュンペイアーキテクツ設立。おもな作品=「新宿の小さな家」(11)、「あきるのシルバーハウス」(15)、「高岡のゲストハウス」(16、能作文徳との共同設計)。

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