Case Study #4

建築家の自邸も、リノベーション
マンションの最上階に、天空の平屋

永山祐子氏は、自邸として、築43年のマンションの一室を購入し、改修した。子育て環境のことを考え、もともとは新築の平屋を求めていたが、それに代わるものをマンションの最上階に発見。既存建物のみごとな再解釈を行っている。

作品 「杉並の家」
設計 永山祐子

取材・文/大山直美
写真/山内紀人

  • 2層あわせて188㎡ほどのメゾネット住宅(7~8階)。8階は既存の間仕切りを取り払い、125㎡ほどの広いワンルームになっている。

建物の選びが重要だった

 建築家なら一度は自邸を新築で建てることで表現を試みたいという欲望を抱きそうなものだが、永山祐子さんは近くに土地も買って準備していたにもかかわらず、途中で方向転換し、中古マンションを購入してリノベーションすることに決めたという。6年前に結婚、現在5歳と3歳の子どもを抱える「母」としての永山さんの理想は「子どもが走りまわれる平屋のようなおおらかなつくり」。限られた敷地面積で縦に積み重ねざるをえない都心の一戸建てでは、理想から遠ざかってしまうからだ。
 事務所や実家に近いエリアに的を絞り、ネットの物件検索サイトで見つけたのが、現在の住戸。最寄り駅から徒歩数分、築43年、8階建てのSRC造で、売りに出ていたのは7・8階のメゾネット。竣工時はオーナーの住居だったため、2層合わせて188㎡、しかも93㎡のテラス付きという破格の広さだが、売れ残っているのにはそれなりの理由があった。
 元オーナーが売却したのち、この住戸は長く事務所として使われていた。その後、不動産業者が買いとってシェアハウスにする計画を立てたが、管理組合の猛反対にあって頓挫。売主の不動産業者は値をかなり下げたものの、内部は事務所当時のまま、10室近い小部屋に仕切られ、キッチンも浴室もなし。一般客が購入して住まいとして改修するにはあまりにハードルが高い物件だったのだ。
「私にとっては水まわりも一からつくれるので、むしろ好都合でした」と語る永山さんは、さらに値段交渉の末、解体工事費も売主側の負担で、スケルトンにしたうえで引き渡すことを条件に契約。その一方で、管理組合と交渉し、生活の中心である上階のサッシもすべて替えている。共用部にあたる窓サッシは通常、個々に交換することはできないが、この希望が通ったのも大きな収穫だろう。

  • 改修中
    間仕切りを取り払った軀体。窓際に柱のないラーメン構造のため、開放的な改修が可能だった。
    提供/永山祐子建築設計

  • 外観。上層階のテラスが広いのが特徴の8階建てのマンション。

8階にある天空の平屋

 完成した住まいは、7階が将来の主寝室と永山さんの仕事部屋で、8階はLDKと寝室が一体になった125㎡の一室空間。窓サッシはすべて特注で、南面は窓枠や框が床下に納めてある。室内からはほとんどガラスしか見えず、室内の床と外のデッキが連続し、なんとも開放的。まさに「天空の平屋」だ。
 一方、一直線に延びるデスクを造り付けた西面は、すぐそばを幹線道路が走っているため、電動ブラインドを内蔵したトリプルガラスのFIX窓を採用。騒音はまったく聞こえず、ジオラマのような都会の風景が一望できる。北側の一角には建具で仕切れる寝室があり、現在はここに家族4人で寝ているが、将来はふたつに仕切って子ども室にする予定。隣の一極集中型の収納には、衣類、布団、玩具など、日常使うものがほぼ納まっている。
 テラスは格好の遊び場で、南側だけでなく東の浴室脇にも出入口があるので、子どもたちは内外の別なく「とにかくぐるぐる走りまわってます」と永山さん。デッキの両脇には造園家の荻野寿也さんが実のなる木をたくさん植えてくれたので、子どもが鳥と競って実を摘んでは食べているという。
 もうひとつの見どころは、随所に配したアートだ。ガラスのショーケースのような階段室にかかった2点は、階下の玄関前に配した1点との三部作で、作家の友人の写真作品。一見むき出しに見える室内の壁はおおむねモルタル仕上げだが、ここの壁だけは解体中にはつった元の壁の荒々しい表情をあえて残している。
 ちなみに階段室をガラスで覆ったのは、冬場の上階の暖気を保つ目的もあるという。床暖房は電気とガスのハイブリッド方式で、快適で光熱費も驚くほど安いそうだ。断熱性や気密性、遮音性といった目に見えない性能にはしっかりお金をかけたと永山さんは言う。
 子どもが小さいから階下への音が気になるとマンションの1階を選ぶ人は多いが、最上階のメゾネットならその心配もないし、まわりを建物に囲まれた専用庭よりテラスのほうが眺めもよく、開放感もある。動く電車や車が見下ろせる環境も、音さえ遮断できれば、子どもにとっては見飽きない楽しい風景なのだろう。どこにいても家族の気配が感じられるので、寝かしつけた子どもが不安になって起き出すこともなくなり、「旅行から帰ってきても、子どもは『ここが一番だよー』と言います」と永山さんは笑う。
 新築の一戸建てでは決して手に入らなかった快適な空間を、中古マンションのリノベーションによって獲得した永山さん。その成功は、建築家の眼で、この物件を見つけた瞬間に半ば決まっていたといっても過言ではない。かつては最上階に広いオーナーの住まいがあったが今は空き室になっているという、小規模な中古マンションは案外多いのではないか。新しい生活が開ける可能性を秘めたお宝物件は、人知れず都会の空中に漂っているのかもしれない。

  • 8階の室内からテラスを見る。まるで郊外の平屋のような広さのテラス。

  • 自宅でも仕事ができるように設けられた、7階のオフィス。

  • ギャラリーになっている階段室。川久保ジョイ氏の写真作品が飾られている。

  • 7階、8階と連なり、8階から降り注ぐ光あふれる階段室のギャラリー。

  • 8階。三面から光が入る明るい空間。新設したサッシは隠し框にすることで、ガラスだけに見えるようにしている。

  • 西側の横長窓には、デスクが造り付けられている。ブラインドが内蔵されたトリプルガラスは断熱、防音にもすぐれる。

  • 93㎡ほどのルーフバルコニー。庭が室内にも入り込み、内外が一体的に感じられる。

「杉並の家」
  • 建築概要
    所在地 東京都杉並区
    主要用途 住宅
    家族構成 夫婦+子ども2人
    設計 永山祐子/永山祐子建築設計
    構造 鉄筋コンクリート造
    施工 分離発注
    階数 地上8階(7、8階に居住)
    敷地面積 599.77㎡
    建築面積 390.39㎡
    延床面積 188.71㎡(住戸専有面積)
    設計期間 2016年1月~12月
    工事期間 2016年4月~12月

  • おもな外部仕上げ
    屋根・外壁 既存
    開口部 制作スチールサッシ、一部既存
    外構 ウッドデッキ

  • おもな内部仕上げ
    玄関
    セラミックタイル
    壁・天井 既存
    7階廊下
    フローリング
    既存、PB 塗装
    天井 既存
    7階寝室
    フローリング
    モルタル金ごて押さえ、
    一部既存 塗装
    天井 既存 塗装
    7階事務所
    スギ合板 塗装
    スギ合板 塗装、
    一部既存 塗装
    天井 既存 塗装
    8階リビング、ダイニング、キッチン、寝室
    フローリング
    モルタル金ごて押さえ
    天井 木毛セメント板 塗装
    8階水まわり
    セラミックタイル
    モルタル金ごて
    天井 モルタル金ごて、
    木毛セメント板 塗装

Profile
  • 永山祐子

    Nagayama Yuko

    ながやま・ゆうこ/1975年東京生まれ。98年昭和女子大学生活科学部生活環境学科卒業。98~2002年青木淳建築計画事務所。02年永山祐子建築設計設立。おもな作品=「カヤバ珈琲」(09)、「勝田台のいえ」(13)、「豊島横尾館」(13)など。

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