特集2/ドキュメント

午後/曇り さっそく現場へ

 民宿からさらに車で20~30分、みかん畑と茶畑が続く傾斜地のあいだを縫うように、高低差とカーブが激しい道が続く。最後は車1台がやっと通れる幅で未舗装、藪の中の道なき道を通り、ようやく目的地に着いた。民宿もそうだったが、やたら飼い犬が多く、范さんファミリーとともににぎやかに出迎えてくれる。
  眼前に広がる湖は想像以上に大きく、蒼蒼とした湖面にまわりの緑や遠方の山々が映り込んださまは、まさに水墨画のようだ。湖岸にはかつての売春宿とおぼしき朽ちた煉瓦造りの建物が並んでおり、内部は厨房や控え室、資材置き場として活用されている。
  范さん兄弟はふたりとも口数の少ない、とても控えめな感じの人。兄の揚橋さんは確かに歯科医らしい学者肌に見えるが、かたや弟の揚存さんは長い髪を自作のかんざしで束ねた、いかにもアーティスト然とした印象だ。
  われわれが范さん兄弟やその家族、一家と付き合いのある建設業者やボランティアの人々など、三々五々集まってきた台湾版縄文建築団のメンバーと挨拶を交わしているあいだに、藤森さんはさっさと着替えて、すっかり板についた作業着姿に。ひと足先に着いて着替えずみの通訳の白さんもなんと鳶職人御用達の例のだぶだぶズボン。本家、縄文建築団の南伸坊さんのいでたちに憧れて購入したとか。気がつけば、コーチさんももはや現場モードに入っている。
  何はともあれ、ふたつの施工現場の進行状況をのぞいてみよう。まず舟の茶室はと見ると、屋形船のような木造船を想像していたが、意外にも本体は、スタイロフォームにステンレスメッシュとセメント系下地剤を混ぜたモルタルを塗り込めた、モノコック構造。小舟のわりに存在感がある。なぜ木にしなかったのかと藤森さんに問うと、「舟というよりは小島をつくりたかった。建築としてつくりたかったんだよ」とひと言。意外とやすやすと設計コンセプトを語ってくれるんですねと茶化すと、「だから、こういうのは実物見てからじゃないとわからないでしょ」と照れ笑い。教授の講義は青空教室のほうが向いているようだ。

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