特集

写真/山内紀人

2020年 春号 分解、そして再構築‑ CaseStudy#3‑母屋(オ)離れ(ハ)土間(ド)小屋(コ)の融合体

作品/「オハドコの家」
設計/米澤 隆

母屋(オ)離れ(ハ)土間(ド)小屋(コ)がひとつにまとまった「オハドコの家」。
それぞれが異なるデザインでまとめられている。
各棟の役割を特化させ、それに応じた結果だ。
必ずしも全体をひとつのデザインにまとめあげる必要はない、ということだろうか。

撮影/鈴木淳平
ピロティ 北側の玄関前はピロティになっている。2階の小屋の下部を利用したもの。縁側も取り付く。写真/山内紀人
母屋・小屋 片流れ屋根の母屋と切妻屋根の小屋。母屋にはテラス、小屋にはバルコニーが取り付く。写真/山内紀人
離れ 縁側付きの客間のある建築。寄棟屋根。街とのつながりを生む場になることも意図されている。写真/山内紀人

バラバラの物体が凝縮したよう

 古くからの屋敷と、田畑をひらいて建てられた新興住宅が混在する住宅地。そのなかに、形も色も異なるボリュームが取り付いたような家が立つ。バラバラの物体が凝縮したようであり、増殖したようでもある姿は「オハドコの家」という名が示すように、母屋(オ)・離れ(ハ)・土間(ド)・小屋(コ)が一体となっていることに由来する。
 一体とはいえ、各々は別々の建物のように分かれて見えるようにつくられている。たとえば、屋根。母屋には片流れの屋根がのり、和室の離れには寄棟屋根がのり、水まわりと廊下が納まるチューブ状の土間はフラット屋根。L字形に折れた小屋のような個室群には、切妻屋根がのる。外壁にしても、母屋はレッドシダー張り、離れはアクリル系塗材の吹付け、土間部分はモルタル塗り、小屋はガルバリウム鋼板張りと、切り替えて仕上げられている。結果的に、これらの形状や仕上げは周囲に立つ家のパターンを反映したものとなった。またそれぞれのボリュームは小さめで凸凹があるため、まるで住宅群のようであり、総2階建ての住宅一棟に比べて威圧感はない。周囲になじむ形状や仕上げ、スケール感は、道行く人に親密さを感じさせるものとなっている。
 一方で室内では、スペース同士がゆるやかに連続する。母屋の壁は漆喰、土間チューブの壁はモルタルなど、床や壁などの仕上げには異なる素材が使われているものの、境目は扉で明確に仕切られていないためである。たとえば、生活のメインスペースとしての母屋のダイニングとリビングは、チューブ状の土間にあるキッチンと対面してつながっている。リビングの階段を上った先の踊り場は、個室の前にしつらえられたカウンターと吹抜けを介して下階とつながる。またリビングは、南面の大開口とテラスを介して離れの客間とつながる。そうして離れの南側の縁側から母屋北側のピロティまで、内外を串刺しにするように視線は一直線に通る。

コンセプト

リビング・ダイニングのある「母屋」、客間のある「離れ」、寝室のある「小屋」、それらを結びつける「土間」の4つの建築を、それぞれの場でのふるまいやコンテクストから個別につくっている。それらを融合させた住宅の住人は、その時々の感情やふるまいに合わせて4つの建築を行き来していく。

小屋の内部にある寝室。右手の小窓から母屋の踊り場が見える。撮影/鈴木淳平

みんなで設計した部分の寄せ集め

 見た目に、また構成として複雑な家が出来上がった理由は、設計する際の特殊なプロセスにある。設計した米澤隆さんは6名の建築学科の院生と学部生を募り、本プロジェクトを開始。まずは敷地周辺を歩きながら地域の特性を読みとると同時に、建主とのやりとりを通じて生活像を把握していった。挙げられた大小さまざまな要件からひとつを選び、そこから発想して学生たちは「アイデアの種」と名づけた敷地写真を下敷きにしたスケッチとキーワードを用意。たとえば、建主の「子どものために礼儀や作法を重視したい」という希望から想像をふくらませて建物の姿を線画でラフに描き、「町家的領域」というキーワードを添える。
実現の可否はさほど問わず、アイデアを広げるブレインストーミングのような機会を設けたのである。まとめられたシートには「対面するハナレ客室」「拠り所ピロティ」「踊り場書斎」など、キャッチのタイトルが付けられ、実現案につながった考えも見受けられる。米澤さんは出てきた約120のスケッチすべてを建主に見せ、建主から一つひとつにコメントを返してもらった。そのときのルールとして、建主が線を引かずに評価の星の数とメモのみで答えることとした。地元ゼネコンの設計部に勤める建主がもしスケッチに手を入れると、それが絶対的となり、建築案のさらなる可能性を狭めてしまうおそれがあるためである。この応答を受けて、今度は「アイデアの種」を組み合わせた「空間系」のスケッチを描いた。組み合わせの仕方は、「拠り所踊り場+小屋裏物見台+キッチン直結駐輪土間」など。「化学の実験のようだった」と米澤さんは振り返る。その案に対して建主がさらに応答するなかで、家の原型となる案が見えてきた。こうしてようやく部分を統合した案を「建築設計ログ」として出すことになる。
 米澤さんは素案ともいえるプランに対して、「一人一手」のルールを定めてプロジェクトを進めた。学生は現時点での図面をもとに課題をひとつ見出し、その部分に手を加えた案を描き直して次の人に渡す。連歌のような作業は、百数十手にまで及んだという。「ひとりの美意識でまとまらないようにするなかで、徐々に部分最適化が図られた」と米澤さん。たとえば、敷地の南側に位置していたリビングを北側に移動。それに合わせて客間と距離をとりながらリビングは開かれ、2階の個室はリビング上部を囲むようにL字形に配置されるようになった。屋根も、大きなひとつの屋根がかけられる案から分割する案に。条件をもとに要素を変えながらシミュレーションを繰り返す様は、さながらコンピュータで実行するパラメトリック・デザインを、複数人の頭脳で行うかのようである。途中からはアクソメ図や模型、CGも使って立体構成のスタディも行われた。米澤さんは機能として不具合がないか、法規やコストを満たしているかを把握し、全体をディレクション。
「かかわった学生一人ひとりの個性を織り込みながら、集合知がまとまった」と米澤さん。竣工までの期限を迎えて検討は終了し、実施図作成と見積もり調整、施工へと進んだ。なお、プロジェクトに参加していた院生のひとりは卒業後、米澤さんの事務所に入所。この物件の担当者となり、現場の監理まで行ったという。

2階の踊り場からリビング・ダイニングを見下ろす。奥にテラス、その先に客間。写真/山内紀人
母屋が1階と2階を垂直につなぎ、土間が母屋と離れを水平につなぐ。母屋と離れをつなぐテラス。三方を建物に囲われコートハウスになっている。写真/山内紀人
リビング・ダイニング(母屋)と客間(離れ)や水まわりをつなぐ土間。写真/山内紀人

「同時多発的」な建築を目指して

 そうしてできたオハドコの家は、普段の暮らしで必要となる行為にきめ細かく対応する。「設計でふるまいの異なる生活空間をひとつのデザインとして収束させることには、疑問を抱いています。統合するよりも、『同時多発的な建築』を目指したい。実際の生活では、入浴と食事などは別々に行われます。風呂に入る、食べるなどの行為に対して、既存の浴室やダイニングといった空間がもつ論理やボキャブラリーを生かしながら部分ごとの最適化を図りました」。一つひとつの空間はスケール感も仕上げも、それぞれの機能や特性に応じたもので奇抜さはない。むしろ、客間であれば畳敷き、リビングや個室はフローリング張りというように、それぞれのスペースで一般的に使われる建材を選択している。そのうえで、バラバラな固有の要素やキャラクターを保ったまま配置した。互いのつなげ方や関係性に、この家の特殊な個性があるといえる。
 独立して本来は接しない空間同士が隣り合うことで、接点では齟齬が生じる。ここで、米澤さんは両者の関係を丁寧に読み解き、接点の扱いをひとつずつ検討した。たとえばリビングとキッチンのあいだでは、床のフローリングとPタイルを突きつけて納めることで、あえて違和感を残した。一方で、リビングと個室のあいだでは緩衝空間として広い踊り場を挟んでいる。また、2階個室から土間チューブの上につながるルーフバルコニーでも、デッキテラスの奥行を大きめにとり、互いがなじむようにつくられている。「この家で、空間同士は主従関係にはありません。オ・ハ・ド・コのそれぞれが自立しながらも、全体に寄与している」と米澤さんは表現する。
 建主はその言葉を裏づけるように「どこにいても家族の気配を感じ、お互いが何をしているのかがなんとなくわかります。リビングのソファに座っていても、離れの和室で遊んでいる子どもたちがテラス越しに垣間見え、声は土間を伝ってまわり込むように聞こえてくる。マンション暮らしでは得られなかった、ほどよい距離感が保たれていると思います」と口にする。テラスでは最初から想定していたとおり子ども用プールを出して遊んだり、ピロティ下は思いがけず近所の子どもたちとの交流の場になったり。建主家族は、バラバラの要素を融合させるボトムアップ型の発想の幅を、暮らしながらさらに広げている。

Ohadoko House 撮影/鈴木淳平