展覧会
TOTOギャラリー・間

庭先のランドマーク 2019年、東京都 ©Nagai Anna

2020年 新春号増田信吾+大坪克亘展
「それは本当に必要か。」会期/2020年1月16日(木)~3月22日(日)

たった一枚の塀から設計活動を始め、「躯体の窓」や第32回吉岡賞を受賞した「リビングプール」により高い評価を受けて、建築界の注目を集めた増田信吾+大坪克亘。
彼らは、「場」に大きく影響する部位に着目し、細やかな「観察」と「診断」によって場に寄与する対象を見極め、設計すべき「計画」へと導いていきます。
本当に必要なことをどのように見出していくのか、彼らの探求の軌跡をご覧ください。

始めの屋根 2016年、東京都 ©Nagai Anna
リビングプール 2014年、山形県 ©Nagai Anna
躯体の窓 2014年、千葉県 ©Nagai Anna
つなぎの小屋 2018年、神奈川県 ©Nagai Anna

それは本当に必要か。

 大学を卒業してすぐに手がけた最初の設計は、住宅の塀だった。家の境界を成すその一枚の壁によって、僕たちの建築におけるそれまでの価値観は一変した。10m足らずの長さの壁が、公私を分ける切実な境界であり、人の生活と庭の植生、街並みを巻き込んでいった。その壁は、その家の暮らしとその界隈にとって、最も優先的に設計すべき「前提」に思えた。以降、僕たちは、設計を行う際に、「それは本当に必要か。」を常に自分自身に問いかけてきた。
 その後の2015年、アジア諸国の建築家協会を統括する組織アルカシア(ARCASIA)から依頼を受けた。タイ、インド、シンガポール、中国、日本の若手建築家に、「Future of the Past(過去の未来)」というテーマで自国のリサーチを行い、そこからのデザインの可能性をレポートとして提出してほしいというものだった。多くの「伝統」が現代社会から切り離され、もしくは活用よりも保存することに重きが置かれる今日、〝Past〞に戻って、あり得た〝Future〞を再構築する、という目的だった。
 われわれがリサーチしたのは、外来宗教が渡来する以前の日本に存在していた宗教の原初的形態とされる「磐座(いわくら)」である。磐座とは神の鎮座する所であり、多くの場合は自然の岩石をさす。古神道における自然崇拝〈アニミズム〉では、太陽、山河、森林、海を神域とし、石や樹木を神霊が依り憑く対象物であるご神体と見立て、磐座信仰や神籬(ひもろぎ)信仰が始まったとされる。その後に建てられた神を祀る建物、「社(やしろ)」はあくまでその場所を示すサインでしかなく、岩と周辺環境からなる場所性そのものが重要だとしている。ご神体である岩や樹木が及ぼす影響でその周辺の植生や景色、気候条件が変わり、ほかとは異なる場所が生まれる。そこに人が惹きつけられて集まり、踊り、祈った。言い換えれば、人と場のあいだを絶妙に取りもちながら圧倒的な存在でまわりに影響をおよぼす磁力、そんな力強い場所性を岩石が生んだ。
 僕たちも、人と場の密接な関係を構築したい。その場に根本的な影響を与えられる仕組みが設計されることに価値はある。異なる場がぶつかる境界上や、窓や基礎や軒といった部分、見過ごされがちな細かな気付きに、その価値の源が潜んでいたりする。
 本展覧会では、今まで実施してきた試みを、プロジェクトごとに完結したイメージでプレゼンテーションする方法はとらず、これまでの実践において、どのように設計されるべきかを発見し、状況のなかにどう定着させてきたかを分けて展示する。そして、これまで見過ごされてきた視点や共通点を、プロジェクトを横断しながら探したい。外側にまで大きく視野を広げること、そして目を凝らすことを同時に重ねることで、本当に必要なものは何か、をあらためて考えたいと思う。

  • 増田信吾+大坪克亘の画像

    増田信吾+大坪克亘Masuda Shingo+Otsubo Katsuhisa

    ますだ・しんご+おおつぼ・かつひさ/2007年に増田信吾(1982年生まれ)は武蔵野美術大学を卒業、大坪克亘(1983年生まれ)は東京藝術大学を卒業し、増田信吾+大坪克亘を共同主宰。増田信吾は2019年より明治大学特任准教授。おもな作品に「躯体の窓」(2014)、「リビングプール」(14)、「始めの屋根」(16)、「街の家」(18)、「つなぎの小屋」(18)、「庭先のランドマーク」(19)など。おもな受賞にAR Emerging Architecture Awards大賞(14)、第32回吉岡賞(16)などがある。
    増田信吾(左)+大坪克亘(右)©Nagai Anna