最新水まわり物語

旅客ターミナルを上空から見る。2枚の大屋根は遊歩道「海辺の回遊軸」に沿って、ゆるやかなカーブを描く。 写真/傍島利浩

2020年 秋号嚴島神社への玄関口に
観光の拠点となる新ターミナル

宮島口旅客ターミナル

海から見る。背後の街並みに調和するように大屋根は緩勾配で設計。屋根と街並みに奥行きを生み出している。 写真/傍島利浩

 今年2月29日、国宝であり世界遺産でもある嚴島神社の対岸に「宮島口旅客ターミナル」がオープンした。新ターミナルは2013年から広島県が旧ターミナル横に整備を進めてきた埋め立て地に建設されたもので、単なる乗船場ではなく観光交流拠点としての機能も備えた施設。建物は鉄骨2階建てで、延床面積は約2180㎡、設計は乾久美子建築設計事務所が手がけた。
 広島県土木建築局の的場弘明さんによれば、宮島口には多くの課題が山積していたという。まず建物や護岸の老朽化に加え、フェリー業者が2社あり、乗船場が離れているうえ、桟橋まで屋根がなく、待合室も不足。さらなる問題は交通渋滞で、フェリーターミナルの駐車待ち車両による渋滞がJR宮島口駅とターミナルのあいだを走る国道にまでおよぶ事態を招いているそうだ。なにしろ、ここ数年の年間観光客数は400万人以上というから、1日平均1万人以上。イベントやコンサートが終わった直後の会場周辺のような混雑が日常茶飯事と考えると、尋常ではない。
 こうした状況を改善し、この地区をただの通過地点ではなく、観光客が滞在や回遊をしやすく、宮島の玄関口にふさわしいにぎわいのある場に転換するために、今後もターミナルと連続する広場の整備や、広電宮島口駅や道路の移設など、工事は続く。しかし、新しい街の象徴ともいえる新ターミナルが完成したことは、関係者にとって大きな節目にちがいない。

ターミナルの内観 大屋根を支える柱が立ち並び、その足元に小スケールの各機能を配置。 写真/傍島利浩
ターミナルの内観 2階から待合スペースを見る。立ち位置により屋根の見え方が異なる。 写真/傍島利浩

2枚の大屋根で海辺の動線を演出

 ターミナルの設計にあたっては、広島県が競争入札ではなく、すぐれた提案をした建築家・設計事務所を選定する公募型建築プロポーザルを実施した。参加資格要件をできるだけ撤廃し、公開ヒアリングを行うなど、独自の「広島型建築プロポーザル」方式を取り入れており、これもその一環。とくに今回は名だたる建築家が二次審査に残り、公開ヒアリングに際して入場整理券が配られたことでも話題を呼んだ。
 選定された乾さんの案は、おおらかな大屋根の下に複数の小さなスペースを入れ子状に配した、半屋外空間が多い開放的なプラン。屋根を2枚に分けた細長い形状にした理由について乾さんは、西の駅側から来る人々に対してはゲートのように受けとめる一方、海岸線沿いに将来「海辺の回遊軸」という遊歩道が整備される可能性が大きいことから、遊歩道を歩いてきた人がそのまま、屋根と屋根のあいだの裂け目を通り抜けられるよう、動線をつなぎたかったからだと言う。また、入れ子状の構成については、次のように語る。
「ターミナル駅などではよくエキナカといわれるように、箱の中は店がたくさんできてにぎやかだけど、箱の外と断絶ができてしまう。そうならないように、屋根はかけても『外』にすることが重要だと思いました。また、屋根の下にちりばめる小さな箱はまわりの商店と同様のスケールにすることで、ターミナルと街がつながり、観光客も中と外を自由に回遊できるのではないかと考えたんです」
 乾さんの提案が評価されたポイントは数々あるが、こうした周辺の人の流れや周辺地域との一体感を考慮した点が大きかったようだ。

ターミナルの内観 トイレ前のスペースを利用したベンチ。壁面と同じ木材で統一。 写真/傍島利浩
ターミナルの内観 道路標識のように目を引くサイン。施設内5カ所に設置した。 写真/傍島利浩

年間400万人の観光客を受け入れるトイレ

「三次元の曲線が多く施工が非常に難しいので、設計中は本当にできるのかなと心配してましたが(笑)、とくに南西側から北東側を見通したときの感じがすごくいいですね」という的場さんの言葉どおり、遊歩道との連続性を考慮し、屋根の裂け目に沿って広がる空間は、なんとものびやかで気持ちがいい。トイレはこの通路沿い、南東側の奥に配置されている。
 入れ子状のスペースは、観光案内所や売店など、用途に応じて柔軟に入れ替えることができるため、大勢の関係者の要望に合わせて何十パターンも配置を考えたと苦笑する乾さんだが、トイレの配置は当初から変更はなかったとのこと。ロータリー側の正面から入った左手には商業施設が併設されるため、自然と右奥になったそうだ。
 トイレに関する県からの要望は、ともかく個数を確保すること。「島に渡るとトイレが少なく大変で、とくに女子用はどこも並んでいます」と的場さん。宮島に渡る前にトイレに行ってから、ゆっくり観光してもらうべく、空気調和・衛生工学会が提案する器具数の算定法に基づき、女子用は最高レベルのサービスレベル1、男子用はレベル2の器具数を用意。徹底して真っ白くニュートラルな空間に、ずらりと多数の白い便器や洗面器が並ぶさまは壮観だ。
 便器は従来のタンク式より短時間で連続洗浄ができる「フラッシュタンク式」を選定し、できるだけ待ち時間が少なくスピーディに使えるようにしたとは乾さんの弁。また、ふたつの多機能トイレはプランを左右反転させることで、利き手が左、右のいずれの人にも対応できるように配慮したという。

男子トイレ 小便器は掃除しやすい壁掛式。清潔感がある白でデザインを統一した。 写真/傍島利浩
女子トイレ 洗面コーナー。背後にスペースがあるため混雑時も待ちやすい。 写真/傍島利浩

道路標識のようなわかりやすいサイン計画

 さらに、気を配ったのがサイン計画。「いろいろな担当の方から、来訪者が多くて大変だというお話をうかがったので、このサインでわかるのかと心配で、サインの配置のために模型をつくったり、3Dモデルにもサインを入れ、内部を歩きまわったりして検証したんです。最終的に、施設内の5カ所にピクトサインをちりばめました」と乾さん。道路標識を参考にデザインしたというサインは確かに視認性が高い。
 広島県土木建築局の川畠満さん曰く、「建築家が手がけた建物のサインのなかには、かっこいいけど色が目立たずわかりにくいといった例がなきにしもあらずですが(笑)、乾さんのサインはとてもわかりやすく、それでいてちゃんとデザインされているので、今日見てあらためて感心しました」。
 前述のとおり、今後も整備のための工事は続くため、一新された街の全容が見られるのは少し先になりそうだが、宮島観光に訪れた日本人はもちろん、海外の観光客にとって、新しい建築の魅力だけでなく、日本の公共トイレのすばらしさも体感してもらう場になるだろう。

女子トイレ 混雑緩和のため、限られたスペースに16室のブースを確保した。 写真/傍島利浩
多機能トイレ ベビーシートやオストメイト対応の器具を設置し、多様性に配慮。 写真/傍島利浩
  • 建築概要

    広島県廿日市市宮島口1-11-1
    広島県
    旅客ターミナル
    有限会社乾久美子建築設計事務所
    構造:小西泰孝建築構造設計
    設備:株式会社森村設計}
    照明:(屋外照明)
    有限会社シリウスライティングオフィス(屋内照明)
    大光電機株式会社 TACT
    サイン:株式会社菊地敦己事務所
    建築:広成建設株式会社・広電建設株式会社
    特定建設工事共同企業体
    電気:大新電工株式会社
    機械:天満冷凍機株式会社
    昇降機:日本オーチス・エレベータ株式会社
    11,685.52㎡(うち旅客ターミナル建設敷地:4,968.80㎡)
    2,637.63㎡
    2,174.39㎡
    地上2階
    12.885m
    鉄骨造
    2016年10月~2018年3月
    2018年10月~2020年2月
  • おもなTOTO使用機器

    壁掛大便器セット・フラッシュタンク式 UAXC3CSN
    ウォシュレットPS2A TCF5533AUYS
    棚付二連紙巻器 YH702
    壁掛ハイバック洗面器 LSB125
    クリーンドライ(高速両面タイプ)TYC420W
    ベビーチェア YKA15R
    フィッティングボード YKA41
    壁掛壁排水自動洗浄小便器 UFS900R
    コンパクト多機能トイレパック(右勝手、左勝手の2種の仕様)
    UADAK21R1A1ADD1WA、UADAK21L1A1ADD1WA
    クリーンドライ(高速両面タイプ) TYC420W
    ベビーチェア YKA15R
    ベビーシート YKA25R
  • 的場弘明氏の写真

    的場弘明Matoba Hiroaki

    広島県
    土木建築局
    総括官(建築技術)

  • 川畠 満氏の写真

    川畠 満Kawabata Mitsuru

    広島県
    土木建築局
    営繕課課長

  • 乾久美子氏の写真

    乾久美子Inui Kumiko

    乾久美子
    建築設計事務所
    建築家