特集

周囲の街並み。目の前にスーパーがあり、人通りの多い商店街。写真/山内紀人

2019年 春号 客を招く間取り‑ CaseStudy#4‑1階は、まるまる客間でもある

作品/「街の家」
設計/増田信吾+大坪克亘

両隣を建物に挟まれた間口の狭い立地。光と風、そして眺望を求めて、居住スペースは、高く上空に持ち上げられた。その結果、1階は土間のような場所に。玄関までのアプローチであり、作業場であり、そして客と過ごす場所でもある。

商店街の一画にある3階建ての住宅。2階の床レベルは、4,200㎜ほど持ち上げられている。1階に大坪さん、2階に増田さん。写真/山内紀人

生活の場を4.5mほど持ち上げる

 一方通行ながら、バスの通る商店街。昔ながらの木造2階建てやRC造の商店が互いに接するように立ち並ぶなか、道に面した地上部分があいた区画がある。接道した西側の間口は約3m。道を歩いていると気づかずに通りすぎそうだが、見上げるとガラス窓のファサードをもつ2層分の建物が、持ち上げられたようにつくられている様子がわかる。
 街の雰囲気が気に入っていた建主夫妻は、この商店街に面した敷地を、大学の頃からの友人だった増田さんと大坪さんに相談のうえ購入。大きな課題となったのは、通り面をどのようにつくるかということだった。「街とのかかわりを大切にしたい」という建主の想いをくみながら、高さ3mのバスが通るときの音や視線を避けることはできないか。同時に、妻が求める見はらしのよい景観を確保できないか。
 増田さんは「当初は、上下階を貫く階段室を利用して光を1階まで届けるプランも検討しました。でも、不自然にがんばるよりも、光と風が通るところにプライベート空間を持ち上げるほうが無理がないと判断したのです」と語る。こうして2階を地上面より4.5mほど持ち上げることで、2階以上は交通の影響を避け、3階寝室からの眺望を得る、また地上面を街に接続したヴォイドのある特徴的なプランが立ち現れた。

奥行きが10m以上ある土間のような1階。接客の場所にもなる。昨年末、棚を兼ねたブレースで構造補強している。写真/山内紀人

1階は動線であり、作業場であり、
人々の集いの場でもある

 1階のスペースに対して、増田さんと大坪さんは用途を連想させる特定の名前をつけていない。道路面より200㎜立ち上げられた基礎の面はフラットに奥まで続き、土間のように洗い出し仕上げにしている。道路境界とはアルミの小さな柵で区切られるが、すべて開け放つこともでき、道路から路地が引き込まれているようにも見える。そして道路側の床には木製のベンチやフロアランプが置かれ、また頭上の揺れ止めを兼ねた棚には植栽が並べられ、半屋外の居室のような雰囲気が漂う。細長いヴォイドの両側には壁を設けず、隣家の外壁がそのまま見えている。途中に現れている鉄骨の柱には、ブレースがパイプで取り付けられた。「ワイヤーのブレースでは、インテリア的に見えてくる。街に属する構造物としたかった」と増田さんは意図を語る。DIYの趣味をもつご主人は、訪ねてきた友人とこの場で一緒に手を動かしながら時間を過ごすこともあるという。
 奥に向かうにつれて、前面道路から入る光は弱まっていく。2階床下面までが高く、気積の大きな空間では、明るさがグラデーションとして感じられ、次第にプライベート感が高まっていく。敷地の奥行き15mの最奥部に設置されたのは、既成品の物置。扉のみガラス戸に取り替えた中には夫の工具棚や本棚、机が置かれ、書斎のようになっている。1階のヴォイド全体は、ご主人が客人をもてなす場としてとらえることもできるだろう。もちろん、奥さまも含めて気兼ねなく訪問客に対応できる場があることはうれしいだろうし、子どもが大きくなるにつれて、ここは子ども同士で集う遊び場のひとつとなるにちがいない。「家にとってよいことを考えていくと結果的に街もよくなり、よい循環を生む」という増田さんと大坪さん。適度に囲われ、かつ街に接続した空間は、滞在する人に不思議な居心地のよさをもたらす。

住まい手の子どもとその友だち。1階の開けたスペースは、子どもたちにとっての遊び場にもなる。写真/山内紀人
1階に壁がないため、隣家の壁が露出。隣家とのあいだにある配管をメンテナンスしやすい。写真/山内紀人

親しい客は2階に通される

 物置の上にかかる階段を上っていくと、2階の玄関に至る。洗面台と折り畳みの天板が仕込まれたカウンター付き収納が中央に設置され、周囲の床にはFRP防水が施されている。家の中まで防水面が引き込まれているのは、1階のヴォイドが続いている余韻を残すため。また、この玄関でも来訪者の対応を行えるようにするためだ。
 家に招かれた客はダイニングキッチンを通り、道路側のリビングに造り付けられたソファに座る。大人数が来て食事をする場合は、ここに組み立てテーブルを出し、ダイニングとしても機能する。「建主が抱くイメージを共有しながら、シークエンスのなかで見立てるように部屋をつくっていった」と増田さん。普段、インテリアの設計を仕事にしている建主は、自分たちの持ち物に合わせて収納や家具を詳細に検討し、増田さんと大坪さんはそれに応えながら空間に融合させていった。「設計ではつねに、全体と部分の駆け引きが繰り返されました。身体的なスケールと建物を落ち着かせて、生活に溶け込ませることを目指した」と増田さんは説明する。
 客がトイレを使用する場合は3階へと案内されるが、プライベートな寝室と個室は引き戸で閉め切ることができる。ちなみに東側の寝室では、1階の階高を上げたことで視線が近隣の建物の屋根を越え、建主念願の見はらしのよい眺望が得られた。廊下と浴室にはトップライトが設けられて明るく、日中はとくに外を存分に感じられる。限られた面積のなかで街路に面した1階と2階の居住スペースを切り分け、外部の光と風を取り込む手法は、町家の構成を思い起こさせるものである。
 増田さんと大坪さんがこれまで手がけた「躯体の窓」(2013)や「リビングプール」(14)などは、内外や部位ごとの境界に注力して設計した様子がうかがえる。この家では街もひっくるめながら公私の境界を立体的にとらえたことで、家族と客、家族と街との関係を豊かに広げるものとなっている。

3階の居室1から北東側を見る。周囲の軒高よりも3階のフロアレベルのほうが高く、隣家に眺望をさえぎられない。写真/山内紀人
3階の廊下。隣家に挟まれた細長い敷地のため、トップライトから光を取り入れている。写真/山内紀人
1階から2階の玄関に至る階段。階段の下には倉庫。書斎としても使われている。写真/山内紀人
2階の玄関から、LDKを見通す。親しい友人を2階に招くことがあるため、玄関を広くしている。玄関脇の水栓で、帰宅後、すぐに手洗いができる。写真/山内紀人
  • 増田信吾氏の画像

    増田信吾Masuda Shingo

    ますだ・しんご/1982年東京都生まれ。2007年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。07年増田信吾+大坪克亘を共同で設立。おもな作品=「ウチミチニワマチ」(09)、「躯体の窓」(13)、「リビングプール」(14)。

  • 大坪克亘氏の画像

    大坪克亘Otsubo Katsuhisa

    おおつぼ・かつひさ/1983年埼玉県生まれ。2007年東京藝術大学美術学部建築学科卒業。07年増田信吾+大坪克亘を共同で設立。おもな作品=「ウチミチニワマチ」(09)、「躯体の窓」(13)、「リビングプール」(14)。