最新水まわり物語

オフィス階の共用スペース。写真/鈴木久雄
外観。左手に低層の商業棟、右手にオフィスタワー。写真/鈴木久雄
俯瞰。中央に臺北南山廣場のオフィスタワー。低層の商業棟と文化・入口棟が並び立っている。左手に台北101 写真提供/三菱地所設計

2019年 新春号日本のトイレの品質が
台湾でもみとめられた

臺北南山廣場(たいぺいなんざんひろば)(台北市信義区)

オフィスのエレベータホール。壁はオニキスの光壁。
天井高が3.2mある執務室。写真/鈴木久雄

 2018年6月、三菱地所設計が設計を手がけた「臺北南山廣場」が台北市信義(しんぎ)区にオープンした。同プロジェクトはオフィスタワー、商業施設、文化施設の3棟からなる大規模複合開発で、事業主は台湾の大手保険会社、南山人壽保險股份有限公司(なんざんじんじゅほけんこふんゆうげんこうし)(以下、南山人壽)。信義区は台北のなかでも政治・経済・商業の中枢で、敷地は街の中心軸の南端に位置し、台湾一の高さを誇る超高層タワー「台北101」に隣接するという都心の超一等地だ。
 東西に長い敷地はかつて台北市の展示施設や駐車場が存在していた土地。市はそれを50年の定期借地として貸し出し、再開発によって地域を活性化する拠点にしたいと考え、事業者と設計者のペアで応募することが条件のコンペを実施した。南山人壽は三菱地所設計に声をかけ、国際的な有名建築家も参加したこのコンペにおいて、タッグを組んだ両社の案はみごと、1等を獲得したのだ。
 三菱地所設計がパートナーに選ばれた理由について、同社の藤貴彰(たかあき)さんはこう語る。
「クライアントは以前から日本のオフィスビルのノウハウを知りたいと考えており、トップ自ら丸の内の視察にいらっしゃいました。ビル単体のデザインだけでなく、メンテナンスのあり方、街の雰囲気やにぎわいのつくり方も含めて、街全体をつくれる設計事務所であることを気に入っていただけたようです。今回の事業も長大な敷地によって分断されていた人の流れやにぎわいを創出するという意味では、街づくりですから」

12F 臺北南山廣場オフィスタワー 集乳室 搾乳のための個室。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 淋浴間(シャワーブース)シャワー横のトイレ。

アジア一のハイグレードのオフィスを目指す

 南山人壽は、シンボリックな建築にはしたいが、絶対的なシンボルである台北101と調和したものにしたいと要望。これを受け、台北101を頂上ととらえ、それに連なるゆるやかなスカイラインを形成するようなイメージを考え、半分ほどの高さ272mのオフィスタワーを中心に、台北101に隣接した西側に商業棟、オフィス街に面した東側に文化・入口棟を配した。
 感謝の意を表した「合掌」をモチーフにしたオフィスタワーは地上48階建て。アジア一のハイグレードのオフィスビルのあるべき姿を多様な角度から模索したと藤さんは振り返る。
 その結果、基準階高4.8m、天井高3.2mという空間にゆとりのある執務室とした。エレベータには、日本でも先端の技術を導入し、上下2層のカゴが同時に動く「ダブルデッキエレベータ」と、IDカードをかざすとどのエレベータが自分のオフィス階に最も速く着けるかを教えてくれる「行先予報システム」を組み合わせることで、大勢が一度に、かつ効率よく移動することが可能になった。
 各階のエレベータホールと執務室をつなぐ共用スペースの内装設計も、現地の設計事務所ではなく三菱地所設計が担当しており、一流ホテル並みの上質な空間を実現している。
 同社の川岸昇さんいわく、「働く人がステータスを感じられるような空間を提案しました。たとえば、テナント側の壁面にはブラックステンレス(鏡面仕上げ)やガラスといった素材を用いることで高級感を出したり、廊下の天井もダウンライトはなくし、コア壁側の上部のスリットから間接照明で照らすことによって、天井面をすっきり見せています」。
 基準階の共用施設で画期的なのは、各階に「淋浴間」(シャワーブース)と「集乳室」を備えた点だ。
「淋浴間」は自転車通勤者や就業前後にランニングをする人向けに設置。また、「集乳室」はいわゆる授乳室ではなく、搾乳を行うための専用スペース。長い育休をとる女性が少なくない日本と異なり、台湾では産後2~3カ月で職場復帰する女性が大半というお国事情もあり、南山人壽からの強い要望で設けられたという。「淋浴間」はトイレも隣接したゆとりの空間。また、「茶水間」(給湯室)もガラス張りで開放感がある。

12F 臺北南山廣場オフィスタワー 淋浴間(シャワーブース) 一人用のシャワーブース。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 茶水間(給湯室) 給湯室などの共用施設を清潔感のあるデザインにまとめている。

日本のトイレを台湾で実現

 ところで、日本のオフィスビルのノウハウを取り入れたいという南山人壽の意向により、設計会社ばかりか、外装カーテンウォールやエレベータなど、随所に日本の企業の知恵や技術が多く生かされているのもこのビルの特徴のひとつ。むろん、トイレも例外ではない。
「日本のオフィスのトイレでは常識的なことでも、台湾では実例の少ないことがいろいろありました。そこで、三菱地所設計とTOTOの知識と経験をもとに、一つひとつ説明し、納得していただいたという経緯があります」と語るのは、三菱地所設計の大﨑駿一さん。
 たとえば、日本の商業施設や新しいオフィスビルのトイレでは、衛生上、入口にドアを設けないのが常識となっているが、台湾にはまだドアのあるトイレが多かった。プランの工夫により、ドアがなくても内部が丸見えにならず、むしろ衛生的でよいことを説明。また、台湾のトイレは、まだ床に水を流して掃除する湿式清掃が常識。湿式ではなく乾式にすることで菌の繁殖が減り、段差もなくなり、ブースも床とのあいだの隙間がなくなることで独立性が高まるといったメリットを説明。さらに、オフィスビルにウォシュレットを全面設置したのも、台湾では初の試みだった。一つひとつ設計意図を伝え、いずれも施主の賛同を得られたという。
 黒を基調にしたシックな男子トイレと、木の温かみを感じさせる女子トイレは、どちらも一見、日本の最先端のオフィスや商業施設のトイレを思わせ、目慣れたわれわれにはむしろ違和感がないが、初めて見る台湾の人々には驚きの連続なのかもしれない。
 そもそも、外国の設計者がトイレの一つひとつまで細かく設計し、現地の設計事務所と一緒に日本での設計監理と同程度の設計監修まで行った例は滅多にないとお三方は口を揃える。トイレの乾式清掃も含めた今後のメンテナンスについても、日本式の運営管理のノウハウを生かしていく体制が構築されているとのこと。
 トイレ先進国日本からまるごと輸出されたような「臺北南山廣場」のオフィストイレは、今後、台湾の水まわり空間を向上させるうえで、ひとつの起爆剤になるにちがいない。

12F 臺北南山廣場オフィスタワー 男子トイレ 男子トイレの全景。乾式清掃対応の床や汚垂石など、日本の仕様を採用している。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 多機能トイレ 十分なスペースが確保された多機能トイレ。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 男子トイレ 小便器。書類を置ける低いライニング。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 男子トイレ 個室ブース。奥の壁は鏡張り。
12F 臺北南山廣場オフィスタワー 女子トイレ 女子トイレの全景。女性が働きやすいように、左手に小物入れを設置。
  • 藤 貴彰氏の画像

    藤 貴彰Fuji Takaaki

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  • 川岸 昇氏の画像

    川岸 昇Kawagishi Noboru

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  • 大﨑駿一氏の画像

    大﨑駿一Osaki Shunichi

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