展覧会
TOTOギャラリー・間

RCRアーキテクツと「ラ・ヴィラ」計画地(スペイン、ラ・ヴァイ・デ・ビアニャ)写真/Hisao Suzuki

2019年 新春号RCRアーキテクツ展
「夢のジオグラフィー」会期/2019年1月24日(木)〜3月24日(日)

RCRアーキテクツは、スペイン・カタルーニャ地方のオロットを拠点に、歴史や文化など、その土地に根差した詩情豊かな建築を生み出してきました。「RCRアーキテクツ展 夢のジオグラフィー」では、奈良県吉野町の人々と協働しているパビリオンの一部や、ドキュメンタリー映像、美しいドローイングなどを通じて、彼らが長い時間をかけて故郷で実現しようとしている「ラ・ヴィラ」プロジェクトと、日本とのかかわりを紹介します。
今回は「夢のジオグラフィー」というタイトルに込められた意味について、スペイン在住でRCRとも親交のあるブックデザイナーの坂本知子さんにひもといていただきます。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2018 カタルーニャ館展示「Dream and Nature」(2018/イタリア、ヴェネチア) 写真/Adria Goul
トゥッソル・バジル陸上競技場(1991〜2012/スペイン、オロット)写真/Hisao Suzuki

夢から建築、そして現実(リアリティ)へ

 2018年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展でカタルーニャ館の展示を担当したRCRアーキテクツは、「Dream and Nature ― 夢と自然」というタイトルのもと、巨大なレンズ状の無数の丸ガラスを浮かべたインスタレーションを発表した(その幻想的なイメージは多くのメディアで紹介されたので覚えている方も多いだろう)。しかし現代建築の潮流を問う国際的な舞台でなぜ「夢」なのか。そして今回のTOTOギャラリー・間での「Geogra-phy of Dreams ― 夢のジオグラフィー」もまた「夢」と題されている。この言葉は彼らにとって、何を意味するのだろうか。
 RCRは、とくに若い人たちに向かって「夢を見ろ」と臆せずに語る。夢を見るという行為はとても個人的で自由なものであり、それは理性の対極に位置するものとして時にあいまいで、はかない印象をも与えるかもしれない。しかし彼らは、今私たちが住んでいるこの世界 ― 人間が(飛行機によって)空を飛び、地球の反対側にいる友人と瞬時に想いを伝えあえるようなこの世界 ― は、過去に誰かが見た「夢」が実現されてできたものであるというシンプルな認識をもっている。つまり、「夢」という言葉は「現実」の対義語ではなく、「未来の現実」の第一歩なのである。環境、経済、社会に関する諸問題や、敷地やクライアントから与えられる諸条件を建築のスタートとすると、夢は多くの人々の協力をまとめるためのゴール、つまりビジョンとなりうるのではないか。
 17年5月にプリツカー建築賞を手にした彼らは、3人の考えが今後広く多くの人々と共有されることを信じて、その後「ラ・ヴィラ」(*1)という大きな「夢」を紡ぎはじめている。この「ラ・ヴィラ」は展覧会の中心ともいえる彼ら自身のプロジェクトであり、その全貌がビエンナーレのそれよりも具体的なものとしてくわしく紹介される、おそらくほとんど初の機会となるだろう。彼らの故郷カタルーニャ地方ガロッチャの、ジオグラフィーとも呼べる大きなスケールをもった深い森と山からなる大自然のなかに、学習と協働のための施設やさまざまなマテリア(物体・物質感)によるパビリオン群、そして自然をほとんどそのまま空間として体感し、身体で理解するための場所が、これから先長い時間をかけて一つひとつ現実のものとなっていくという。彼らの言葉によれば、ここは建築のもつ力によって「知覚することを学ぶ」場所であり、人間が空間を、建築を、社会を、そして世界を知覚する仕方そのものを革新していくための研究所のような場所となる。すべての人々に開かれた、完成を予定する必要のないプロジェクト。建築は目的ではなく、そこへ集まる人々が、いまだ存在しない夢の建築を「見る」きっかけとなる。
 若い頃に訪れて以来、深い興味をもちつづけてきた日本の文化は、彼らのこのような世界観に大きな影響を与えたという。そして2年前に奈良県の吉野の杉や檜を育て扱う人々と出会い、彼らと「紙のパビリオン」プロジェクトをともに進めている(*2)。それらをつないだ旧知の親友でもある写真家・鈴木久雄氏(*3)の目によって撮影された数々の写真やビデオからも、言葉だけではとらえきれない彼らの思想を感じることができるだろう。

*1 RCRアーキテクツが故郷カタルーニャ地方で広大な土地を入手し、推し進めているプロジェクト。研究施設や工房、宿泊施設、パビリオンなどを配し、開かれた研究の場の実現を目指している。
*2 「ラ・ヴィラ」で計画中のパビリオン。吉野杉を使い、吉野の職人により施工される。TOTOギャラリー・間において、構造体の一部が展示される。
*3 スペインの建築雑誌「エル・クロッキース」の専属カメラマンとしても活躍する国際的写真家。

  • RCRアーキテクツイメージ画像

    RCRアーキテクツRCR Arquitectes

    1988年にラファエル・アランダ(61〜、写真右)、カルマ・ピジェム(62〜、同中央)、ラモン・ヴィラルタ(60〜、同左)の3人により、スペインのカタルーニャ地方オロットに設立された建築スタジオ。プリツカー建築賞(2017)をはじめ、カタルーニャ州政府による建築文化賞(05)、フランス芸術文化勲章オフィシエ(14)など、国内外で多数の受賞歴をもつ。08年に旧彫刻鋳造工場であった「バルベリ・スペース」へ拠点を移し、13年にRCR BUNKA財団(日本語の「文化」に由来)を設立して以来、建築とランドスケープ、アートや文化と社会とのかかわりの促進に寄与する活動を続けている。奈良県吉野町をはじめ、多くの人々の協力を得て、進行中のプロジェクト「ラ・ヴィラ」内に、17年RCR LAB・A建築研究所を設置。代表作に「トゥッソル・バジル陸上競技場」(1991〜2012/スペイン・オロット)、「ラ・リラ・シアター・パブリック・スペース」(11/スペイン・リポイ)、「スーラージュ美術館」(14/フランス・ロデーズ)、「ヴァールゼ・クローク・メディアテーク」(17/ベルギー・ゲント)など。
    Hisao Suzuki