最新水まわり物語

2018年 夏号日比谷を活性化する新しいミッドタウン

東京ミッドタウン日比谷

 今年3月、三井不動産が日比谷に計画した、新たなランドマークタワー「東京ミッドタウン日比谷」がオープンした。
 日比谷公園に面した敷地は、同社が所有していた三信ビルディングと日比谷三井ビルディングがあった跡地で、地上35階、地下4階建ての建物は11~34階がオフィスフロア、地下1~7階がレストラン、ショップ、シネマコンプレックスなど計60店舗の商業施設からなる。
 東京ミッドタウンといえば2007年に六本木に誕生した複合施設名だが、三井不動産によると、今回、同社の都市型大規模複合開発を「東京ミッドタウン」ブランドとして位置付けることになり、同ブランド名を冠した新たなビルがお目見えするに至ったという。
 近接する銀座や有楽町に比べると商業施設は少なく、ビジネス街のイメージが強い日比谷だが、かつては鹿鳴館があり、帝国ホテルも立ち、国賓や外交官をもてなす社交場として発展。劇場や映画館などが立ち並ぶ芸術・文化・エンターテインメントの発信地でもあった。やわらかな曲線を生かしたビルの外観は、舞踏会で社交ダンスを踊るカップルのイメージから発想したものだそうだ。土地の歴史を継承し、より人でにぎわう魅力的な街に進化させたいという開発意図を体現しているようにみえる。

トイレを施設に訪れるきっかけにする

 今回取材したのは、低層部の商業エリアのトイレ。商業施設全体の内装設計を手がけた乃村工藝社の數坂(すざか)幸生さんによれば、共用部のデザインコンセプトは「劇場空間都市」。確かに、1階から3階までが吹き抜けたアトリウムの見上げは、カーブを描いた客席が幾重にも連なるヨーロッパのオペラハウスを想起させる。郊外のショッピングモールならいざ知らず、都心でここまで共用空間が広い商業施設は珍しいだろう。
 訪れた人に、ぜいたくな時間と空間のなかで特別な体験をしてもらいたいという開発側の想いは、トイレにも生かされている。三井不動産のそうした意向を受け、「トイレを単に用をたす場ではなく、施設に足を運んだり滞在時間を延ばしたりするきっかけになるレストスペースにしたいと提案しました」と語るのは、乃村工藝社の畑中千賀子さん。
 2、3階のトイレには、まさにそこに行くことを目的に足を向け、長くとどまりたくなる仕掛けが満載だ。畑中さんによれば、事前に乃村工藝社内はもとより、プロジェクトにかかわる各社の社員からトイレに対する意見を聞き取り、それをデザインにつなげていったという。
 まずこだわりのレストランやショップがある3階は、トイレも大人の社交場をイメージした内装で統一。特筆すべきは、男女ともトイレ空間とは別に、広いドレッシングラウンジを設けた点にある。いずれも身だしなみを整えるためのコーナーやゆったりくつろげるソファがあるうえ、女性だけでなく男性用にもフィッティングルームを完備しており、時代もついにここまできたかと驚かされる。女性用のラウンジには個別の鏡と椅子を備えたスタイリングコーナーもあり、ついつい長居してしまいそうだ。
 これだけのぜいたくな空間が使えるなら、確かに、ここを使用することが目的で訪れるリピーターが増えるかもしれない。

ターゲット層を想定するとみんなが使いやすい

 次に、3階に比べてカジュアルな飲食店などが多い2階のトイレは、小さな子ども連れのファミリー層向けスペースが充実。男女どちらも、ブース内にはすべてベビーチェアが備わっているのはもちろんのこと、ベビーカーごと入れる広めのブースを確保している。
 畑中さんいわく、「とくにファミリー向け限定ではありませんが、女性トイレのパウダーコーナーにはコンセント付きのカウンターを設け、中央には買い物後に荷物を整理したりするのに便利な、大きめのソファを配置しました」と、こまやかな配慮が光る。
 隣接する授乳室はオープンなソファコーナーとふたつの個室を完備。別に、男性も入れるおむつ替えコーナーも用意した。さらに、授乳室の手前には広い待ち合いスペースもあり、妻が化粧直しをしているあいだ、子連れの夫がゆったり待つなどといった使い方ができそうだ。
「ファミリー向けのトイレが充実した施設を見ると、トイレのデザインが子ども寄りに傾いたところが多いので、ここではもう少し大人っぽい上質さを心がけました」と畑中さん。
 2、3階ともに、車いす優先トイレも設けられ、内部には介助者とのあいだを仕切るカーテンを設置。いわゆる多機能トイレを、誰でも使えるトイレと位置付けている施設が多いなか、「ここでは車いすを使用する方や障害のある方優先にしたいというのが、三井不動産さんの強い要望でした」とは數坂さんの弁。子連れのファミリー層が頻繁に多機能トイレを使うと、肝心の車いす利用客が使いづらくなってしまうからだ。
 ただし、車いす優先トイレ、ベビーカー対応ブース、授乳室、ドレッシングラウンジなど、各用途ごとにスペースを確保するとなると、大変なパズルワークを要したことは容易に想像がつく。
 數坂さんも畑中さんも、「一番苦労したのは、限られた面積のなかでどうやりくりするかでした」「ラウンジの広さの男女比をどうするかといったバランスが難しかったですね」と口を揃える。

新たな人の流れを生み出す場となる

 ちなみに、畑中さんはこのプロジェクトの基本設計まで担当後、産休・育休を経て、最近、職場復帰を果たしたそうで、「当時はまだ子どもがいなかったので想像しながら設計していましたが、ここは施設自体も通路幅が広くて買い物がしやすいし、レストルームもこれだけ充実しているので、あ、そうそう、こういうのがあってよかった、あの頃の自分はよくやったとあらためて感じます」と笑う。
 東京の東側エリアに住んでいることもあって、銀座や日本橋で買い物をする機会が多いが、育休中、ベビーカーで入店しやすく、トイレや授乳室が充実した上質な商業施設が少ないことを痛感したそうだ。
 子育て世代はもちろんのこと、熟年層や国内外の観光客も数多く訪れる銀座・有楽町エリア。そこに隣接する「東京ミッドタウン日比谷」は、単なる日比谷の新名所にとどまらず、新たな人の流れを生み出す役目も求められているにちがいない。快適で上質なトイレが、日比谷に人を呼び込む陰の立役者として活躍することを期待したい。

  • 數坂幸生Suzaka Sachio

    乃村工藝社
    クリエイティブ本部
    デザイン2部 グループ1
    グループリーダー

  • 畑中千賀子Hatanaka Chikako

    乃村工藝社
    クリエイティブ本部
    デザイン2部
    デザイナー