最新水まわり物語

北側エントランス。視線の先に日比谷公園。撮影/雁光舎

2018年 春号公園の緑を身近に感じるオフィスビル

日比谷パークフロント

外観。ガラス張りのファサード。撮影/雁光舎
エントランス前。四季折々の植物で緑がたえない。写真/川辺明伸

 昨年5月、東急不動産がケネディクス、日本政策投資銀行と共同で開発にあたっていたオフィスビル「日比谷パークフロント」が完成した。敷地は日比谷公園の南に隣接するという抜群のロケーションで、じつはかつて日本長期信用銀行の本店ビルが立っていた場所だ。旧長銀ビルといえば、オーバーハングした独特の外観を記憶している人も多いだろう。
 1993年竣工と築年数はさほど古くはなかったが、もともと銀行の本店ビルとして建てられたため、そのままではテナントとして貸せる面積が少なく、改修よりは建て替えて不動産価値を高めたほうがよいという判断に落ち着いたと東急不動産の仲神(なかがみ)志保さんは振り返る。
 新たなオフィスビルの開発コンセプトは「On the Park(公園の中のオフィス)」。仲神さんいわく、「ただ公園の緑を見るだけでなく、建物全体で緑を感じられるようにしたいと考えました」。東急不動産ではこれまでにも、新目黒東急ビルや本連載でも紹介した新青山東急ビルなど、屋上庭園、バルコニー、テラスといった多様な緑を積極的に取り入れたオフィスビルを開発し、好評を博している。その背景について、仲神さんはこう語る。
「東急グループは数あるディベロッパーのなかでも人の暮らしに近い会社だと思っていますので、単にいい箱をつくるのではなく、そこで働く人が居心地のよさを感じる『居住感』がある空間をつくっていきたいと日頃から考えています。グリーンはその解決手法のひとつです」

オフィス執務室。周囲の眺望にすぐれている。撮影/雁光舎
エレベータホール。窓際に植栽。撮影/雁光舎
各フロアに設置されたリフレッシュコーナー。撮影/雁光舎

オフィス内の随所に植栽を配す工夫

 具体的に植栽に力を入れたのは、まずビルの足元の外構だ。南北に細長い建物の四周を囲むように多種多様な植物が植えられ、通行人にも緑豊かな環境を惜しみなく提供している。とくにガーデンプロムナードと名づけた遊歩道のある東側は、内と外を仕切るガラス面の足元が室内側に食い込むように斜めに傾いており、プロムナードの幅を確保しつつ、2階の天井を広く見せる意匠としている。
 2階ロビーでは、屋内にも低木や観葉植物が随所に配され、視線の先にはガラス越しに日比谷公園の緑が連続するというぜいたくさ。眼下に日比谷公園が見えるオフィスの執務室の開放感もすばらしい。圧巻は広大な屋上のスカイガーデン。日比谷公園ばかりか皇居の緑も一望できるうえ、テナント専用に朝食を提供するホテル並みのラウンジまで併設。仕事に戻るのを忘れそうなほど、リフレッシュ気分満点のスペースだ。
 設計を手がけたKAJIMA DESIGNの浅見邦一さんによれば、東急不動産と設計担当のスタッフは開始当初から週2回の定例会議を行い、密度の濃い打ち合わせを継続してきたという。
「屋外だけでなく屋内にも緑を取り入れたい、1階から2階に上がる途中で緑に目がとまり、エレベータホールの先にも緑が見えてほしいといった東急側の要望に、技術的にがんばってなんとかついて行った感じです」と笑う浅見さん。おそらく仲神さんの頭のなかには空間を移動するにしたがって見えてくるシークエンスのイメージがあり、それを設計側がつかみとって形にしていったのだろう。エリアごとに照度や日照時間のシミュレーションを実施したうえで樹種の選定や人工照明による補完を行っており、植栽の管理も行き届いている。

スカイラウンジ 日比谷公園を一望できるスカイガーデンに隣接。朝食サービスを利用することができる。撮影/雁光舎
スカイガーデン ガーデンからの眺望。ランチやミーティングなど幅広い用途で利用できる。写真/川辺明伸
スカイガーデン 俯瞰。周囲に高層ビルが少なく、開放的。写真/川辺明伸

女性の要望に応えたパウダーコーナー

 ところで、仲神さんがひとかたならぬ情熱を傾けているのが、基準階のトイレだという。
「今や働く人の4割が女性にもかかわらず、オフィスビルのトイレはいまだにメンズライクなデザインが多い。女性社員が安らげる大切な場所であるトイレだけはきちんとつくりたいと思っています」
 男女トイレともホテルと見まがうような上質な空間だが、とくに目を引くのは女子トイレの充実ぶり。外光が入る洗面コーナーとは別に、光源が点々と鏡を囲んだいわゆる「女優ミラー」を個別に配したパウダーコーナーを設け、さらに奥にはカーペット敷きの独立したフィッティングルームまで確保している。
「ブースの壁面に設置するフィッティングボードは安定が悪いし、便器のそばで着替えたり搾乳したりするのは抵抗があるという女性は多い。ここではそうした声を反映し、無理を言ってドライとウェットのエリアを分けていただきました」とは仲神さんの弁。
 浅見さんによれば、当初はパウダーコーナーをトイレの中央にアイランド型に配し、全体を一体につなぐことで外光を奥まで導き、広がりをもたせたプランを考えていたが、仲神さんの提案でトイレとパウダーコーナーを分離した結果、むしろ開口部は上部だけを高窓として生かし、下は洗面カウンターと鏡を設置するため、割り切って塞いだという。
「僕たち設計者は、せっかく開口部があるなら最大限あけて光を取り込もうと考えがちですが、仲神さんからエリアを分けたいという話が出て、いろいろ試行錯誤するうちに今の案が浮上したんです。窓の外には隣のビルがせまっていて眺めが楽しめるわけでもなく、採光もハイサイドライトだけで十分ですし、ゾーンが明快に分かれ、結果的に非常によかったと思います」

日比谷パークフロント 3F-20F 女子トイレ パウダーコーナー。奥にオフィスでは珍しいフィッティングルーム。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 3F-20F 女子トイレ 洗面コーナー。鏡上にはフェイクのグリーンと高窓を配した。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 3F-20F 女子トイレ ペーパータオルとハンドドライヤーを完備。水栓は温水切り替えが可能。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 3F-20F 多機能トイレ 廊下に面しアクセスしやすい。オストメイト対応の汚物流しを設置。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 3F-20F 男子トイレ 小便器とブースコーナー。奥に洗面。女子トイレと異なる内装材を使用。写真/川辺明伸

本社のトイレを実験台にした

 聞けば、東急不動産は目下、本社ビルの建て替え中だが、解体前の社屋のトイレを改修し、高さや形状の異なる洗面台を数種類設置するなど、さまざまな実験を行い、社員に事細かにアンケートをとったそうだ。
 そこからひろった女性社員の要望が今回のトイレには数々生かされているという。前述のフィッティングルームに加え、ハンドドライヤーとペーパータオルをあえて両方設置したのも、その一例。ハンドドライヤーだけでは水が十分切れない、ペーパーがあると化粧直しにも使えて便利だと、女子社員にはペーパータオル派が圧倒的に多かったとのこと。
 それにしても、緑をふんだんに取り入れた建物内外の各スペース、テナント専用で朝食まで提供するラウンジ、ホテルや百貨店に匹敵する充実したトイレなど、賃料がとれないスペースである共用空間がここまで充実したオフィスビルが実現するとは、隔世の感がある。東急不動産とKAJIMA DESIGNは今もタッグを組み、さらなる大規模なビルを複数計画中だという。
 次はトイレを含め、どんな共用空間で私たちを驚かせてくれるのか、楽しみに待ちたい。

日比谷パークフロント 21F 女子トイレ 顔を明るく映し出す、照明を内蔵した鏡を使用している。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 21F 男子トイレ ホテルライクなトイレ空間。右から大便器、小便器、洗面コーナー。写真/川辺明伸
日比谷パークフロント 21F 多機能トイレ コンパクトなスペースに必要器具を設置。オストメイト対応。 写真/川辺明伸
  • 仲神志保氏の画像

    仲神志保Nakagami Shiho

    東急不動産 都市事業ユニット
    都市事業本部 ビル事業部
    事業企画グループ
    グループリーダー

  • 浅見邦一氏の画像

    浅見邦一Asami Kunikazu

    鹿島建設 建築設計本部
    建築設計統括グループ
    グループリーダー