展覧会
TOTOギャラリー・間
2024年 夏号
大西麻貴+百田有希/o+h展
「生きた全体 A Living Whole」
会期:2024年9月4日(水)~11月24日(日)
開館時間:11:00~18:00
入場料:無料
休館日:月曜日・祝日、夏期休暇、年末年始、展示替え期間
2023年度に日本建築学会賞を受賞した児童遊戯施設「シェルターインクルーシブプレイス コパル」をはじめ、個を出発点に、多様な価値観が重なりあい、全体を包摂するような建築に取り組む大西麻貴+百田有希/o+hの展覧会を開催します。
本展では、彼らの作品や人の営みが織りなす「生きた全体」がどう建築の風景として立ち上がってくるのか、模型や言葉、インスタレーションなどで紹介します。
文/大西麻貴+百田有希
生きた全体 A Living Whole
ひとつの建築をつくるとき、その建築を含む「生きた全体」をどのように考えられるでしょうか。
物と営み、空間と時間にまたがる「生きた全体」を、私たちは以下の4つの切り口でとらえています。
営みの全体
建築をつくるという営みは、私たちが生きることそのものです。その場所にふさわしい建築を、人々とともに掘り起こし、考え、つくり、育てていく。私たちは、そうした営みをも含めた全体を、建築だととらえています。それは、物としての建築を否定することではありません。むしろ物と営みの双方をも含めた全体として、立ち現れる建築の創造力を広げていきたいのです。
空間的全体
建築をつくると、その内側にひとつの世界が生まれます。一方で、建築はその外側の世界にとっての一部分です。もしも建築が、内側と外側の世界をつなぐ存在となりえるならば、小さな居場所から大きな環境までを、連続的にとらえることができるのではないでしょうか。ひとつの物があるとき、その「個」は固有な存在です。いくつかの固有な「個」が集まって、それらが身体的に計測できる数であれば、その集まりには多様さがあるといえるでしょう。しかし、さらに数が増えると全体は均質になり、集まりの多様さは失われます。その際、均質となった全体の内に、新たなまとまりを見出し、より大きなスケールでの「個」を生み出していくことによって、再び周囲と多様な関係を築いていくことができるのです。そのように、建築をつくるとは、私たちの世界のなかに、スケールに合わせたまとまりを見出し、単体では取り出せないひとつながりの関係性を生み出していくことです。
時間的全体
建築は、今目の前にあるものとしてだけではなく、過去、そして未来の建築とともに存在しています。それゆえに、ひとつの建築のなかには過去と未来の人々の生が含まれます。建築の材料ひとつにもまた、土地の一部として育まれてきた長い時間が内包されています。かつて民家が、その土地の風景と分かち難く一体であったのも、その家が背後の山々で育った木や竹、土地固有の石や土、そしてそこで暮らす人々の手によってつくられていたからでしょう。
そのように、過去、現在、そして未来の人々、さらにはその土地の時間とつながる建築を、私たちは今、どのようにつくることができるでしょうか。
存在のかけがえのなさ
建築を含む「生きた全体」を考えるとき、私たちは、建築を自然から離れた人工物というよりは、生き物としてとらえるところから始めてみたいと思います。人間にコントロールされるものとしてではなく、自立した存在として建築と向きあうことで、その存在を機能や性能で測ることを超え、欠点や未完成な部分も含めて愛しみ、育てていくことができます。建築を生き物ととらえる視点は、建築の存在論的意味を問い直す試みです。
ひとつの建築をつくるとき、その建築を含む「生きた全体」をどのように考えられるでしょうか。その問いを、展覧会を通して多くの人々とともに、考えつづけていきたいと思います。
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大西麻貴Onishi Maki
おおにし・まき/1983年生まれ。2006年京都大学卒業。08年東京大学大学院修士課程修了。08年~大西麻貴+百田有希/o+hを共同主宰。16年~京都大学非常勤講師、22年~横浜国立大学大学院Y-GSA教授。
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百田有希Hyakuda Yuki
ひゃくだ・ゆうき/1982年生まれ。2006年京都大学卒業。08年同大学大学院修士課程修了。08年~大西麻貴+百田有希/o+hを共同主宰。09~14年伊東豊雄建築設計事務所勤務。17年~横浜国立大学非常勤講師。
大西麻貴+百田有希/o+hのおもな作品=「シェルターインクルーシブプレイス コパル」(山形県、22年)、「Good Job! Center KASHIBA」(奈良県、16 年)、「二重螺旋の家」(東京都、11年)など。おもな受賞に2023年日本建築学会賞(作品)、BCS賞など。