展覧会
TOTOギャラリー・間

キュレーター 上段左より、塚本由晴、千葉学。下段左より、セン・クアン、田根剛。 ©Anna Nagai

2023年 新春号 How is Life?
―― 地球と生きるためのデザイン 会期:2022年10月21日(金)~2023年3月19日(日)
開館時間:11:00~18:00
入場料:無料
休館日:月曜日・祝日・年末年始休暇[2022年12月26日(月)~2023年1月9日(月)]
*ただし、2023年2月11日(土・祝)は開館
事前予約制(*)

*TOTOギャラリー・間ウェブサイト(https://jp.toto.com/gallerma)よりお申し込みください。

気候変動や感染症等による世界情勢の変化など、さまざまな課題に直面する時代において建築に何ができるのか?
TOTOギャラリー・間の運営委員の議論から生まれた企画展「How is Life? ――地球と生きるためのデザイン」を開催中。
アシスタントキュレーターから見た展覧会を紐解くキーワードとともに、本展で取り上げるプロジェクトの一部を紹介します。

GALLERY 1展示風景。中央「Tool Shed」に4つのプロジェクト(都市林業、小さな地球、茅葺普請、石積み学校)の道具が並ぶ。 ©Nacása & Partners Inc.
GALLERY 2展示風景。左手前「Bikeable」。中央、奥「Bicycle Urbanism」。 ©Nacása & Partners

展覧会を紐解く4つの視点
農、道具、診断、当事者性

 企画展「How is Life?」はTOTOギャラリー・間の運営委員である塚本由晴、千葉学、セン・クアン、田根剛の4名がキュレーターを務める。本展に関する議論はコロナ禍の2020年秋から2年余におよび、22 年3月にはふたりのアシスタントキュレーターと展示デザインチームが加わり、準備が本格化していった。
 「How is Life?」、展覧会タイトルはキュレーターチームからの問いかけである。21世紀に生きる私たちは豊かな暮らしを享受する一方で、気候変動をはじめさまざまな課題に直面する。私たちを取り巻くあらゆる想定が覆されるなか、建築は何ができるだろうか? 本展では「私たちの暮らし」を軸足に、あらゆる分野に目を向け、われわれを取り囲む障壁に小さな穴をあけようとする萌芽を世界中から紹介する。
 4名のキュレーターの方針や内容を決定するのに膨大な話し合いが行われた。22年5月、塚本が活動のフィールドとして足繁く通い、展示プロジェクトのひとつでもある千葉県鴨川市釜沼の「古民家したさん」で行われた合宿をはじめ、その後も対面やオンラインで議論を重ねるなかでつかんだキーワードとともに、21点の出展プロジェクトのうち一部を紹介したい。
 農的な都市:「Capital Agricole」にて発表されたヤン・ケビ氏による色鮮やかなドローイングは、農が溢れる明日の都市を描く。パリは都市農が盛んで、高効率化を第一とする農村部における従来の農「業」用の大農園ではなく、自給自足やコミュニティ形成を目的とした小規模農園が次々と生まれている。
 資源と道具、連関:中庭には実際に稲藁で茅葺の壁を施工した。屋根材のイメージが強いが、工夫すれば壁や軒裏など幅広く用いることができる。用いた稲藁は東工大塚本研が釜沼で育てたものだ。「Tool Shed」には茅葺をはじめ、4つのプロジェクトで用いられる道具が並ぶ。資源が実際に活用されるあいだにはいくつもの道具、それを扱う人が連関する。道具の展示が連関への想像力の起点となることを期待している。

「Capital Agricole」から、アーティストのヤン・ケビ氏のドローイングを展示。 ©Nacása & Partners Inc.
2022年5月「古民家したさん」での合宿の様子。 ©Anna Nagai

 都市を診断する:東大千葉研+千葉学建築計画事務所による「BicycleUrbanism」では自転車ユーザーの視点から都市を診断し、自動車と鉄道を中心に計画されてきた東京で実現可能な提案を行う。チューリッヒではSNS「Bikeable」を通じて市民が道路上の問題点を指摘し、行政がそれに応えて改善を行っている。トップダウン型で行われてきた都市計画に対し、私たち自身が都市を診断する目をもつこと、それが実際の対処に反映される仕組みを整えていく必要がある。
 障壁を壊す当事者性:ある問題に対してそれを自分の問題として捉えられるか=「当事者性」をもつかどうかで暮らしの組み立て方が大きく変わる。たとえば「神水公衆浴場」は熊本震災とその後の断水の経験をきっかけに自宅の風呂を公共浴場として地域に拡張している。非常時への備えを行政の仕事と突き放さずに、自分たちの暮らしの延長線上に組み込むことで、結果的に近隣との紐帯も生み出した事例である。
 展覧会では「How is Life?」という問いに答えている現時点での事例を紹介したにすぎず、これを皮切りに議論はこれからも続いていくだろう。私たちの暮らしについて、一人ひとりが議論に加わるつもりで展覧会を楽しんでもらいたいとチーム一同願っている。

  • 塚本由晴氏の画像

    塚本由晴Yoshiharu Tsukamoto

    建築家[アトリエ・ワン]、東京工業大学大学院教授
    ©Anna Nagai

  • 千葉 学氏の画像

    千葉 学Manabu Chiba

    建築家[千葉学建築計画事務所]、東京大学大学院教授
    ©Anna Nagai

  • セン・クアン氏の画像

    セン・クアンSeng Kuan

    建築史家、東京大学国際建築教育拠点特任教授、米ハーバード大学デザイン大学院講師
    ©Anna Nagai

  • 田根 剛氏の画像

    田根 剛Tsuyoshi Tane

    建築家[Atelier Tsuyoshi Tane Architects]
    ©Anna Nagai