• 1. 腰掛大便器 節水化への終わりなき挑戦  ─  開発の変遷をたどる
  • プロローグ 流せる6ℓ便器がアメリカの心を掴んだ時
  • 2002(平成14)年10月、CNNをはじめとする全米各地の番組で、ある日本関連のニュースが流され、全米の耳目を集めた。なぜなら、その内容は人々の暮らしに密着したものだったからだ。この日から、聞き慣れない日本企業の名前が、アメリカ各地の家庭や職場でさざ波のように広がっていった。
  • プロローグ 流せる6ℓ便器がアメリカの心を掴んだ時
  • トイレ性能に悩むアメリカのお客様に支持されたTOTO
  • TOTOが全米の注目を浴びたのは、その主力商品である便器が、信頼できる洗浄性能調査において上位3位までを独占したというニュースが流されたからだ。便器の性能に悩んでいる人が少なくないアメリカでは、「そうだったのか!」とばかりに、人々がこの情報に飛びついたのである。
  • 節水便器の性能試験結果
  • 出典:NAHBリサーチセンター「WATER CLOSET PERFORMANCE TESTING」2002年9月
  • 信頼できる洗浄性能調査において上位3位までをTOTOが独占
  • アメリカでは水資源保護のため、洗浄水量の規制を実施
  • 日本では水洗トイレの洗浄水量の規制は一般に緩い。しかし世界を見ると、厳しく規制が行われている国や地域は多い。理由は、水資源の確保に問題を抱えているからである。西海岸や南部の諸州に渇水地域を抱えるアメリカでは、1992年にEnergy Policy Act(EPACT:エネルギー政策法)という法律がつくられ、2年後の1994年から、1回あたりの洗浄水量を大便器は1.6ガロン(約6ℓ)、小便器は1ガロン(約3.8ℓ)以下になるよう、製造業者に対する規制が定められた。
  • 各国の洗浄水量規制
  • 米国一部地域で4.8L規制
  • 「流せない」悩みに、築き上げた技術で応える
  • 技術的な裏づけがない法律の施行により、結果的に流せないトイレが流通するという事態を招いていた。TOTOは、長年日本で積み上げてきた節水技術により、EPACT施行前から“流せる”6ℓ便器をアメリカに送り、規制が妥当であることを証明してみせた。こうした実績により、アメリカにおけるTOTO製品の信頼度は急上昇。TOTOは、“節水”でアメリカの心をしっかりとつかみ取ったのである。
  • アメリカ向け6ℓワンピース便器 CST864(左)とCST854
  • “流せる”6L便器でアメリカでの信頼度が急上昇
  • 腰掛大便器 節水化への終わりなき挑戦 ─開発の変遷をたどる
  • 21世紀の住宅設備機器メーカーにとって、節水は最も重要なテーマのひとつである。TOTOは、これに1970年代から取り組んできた。6階建ての仮設ビルで水と代用汚物の流れを検証した時代からスーパーコンピューターによるシミュレーションにいたる、あくなき挑戦の軌跡を振り返る。
  • 第1章 日本にもあった水不足
  • 水不足が深刻だった1973年、節水型器具開発へ乗り出す
  • TOTOが取り組むべき課題として、大便器の節水化が最初にクローズアップされたのは、1970年代前半のこと。1973(昭和48)年に建設省(当時)から発表された1985(昭和60)年までの水需給見通しによると、国内すべての河川開発を終えたとしても、首都圏においてはなお年間約20億㎥の水が不足するとされ、都市住民の節水への意識はいやが上にも高まっていった。TOTOが、腰掛便器を中心に節水型衛生器具開発への取り組みを開始したのは、まさにこの1973年のことであった。
  • 第2章 節水消音便器CSシリーズの開発
  • 6階建 仮設ビルを建設して全体検証し、約30%もの大幅な節水を実現
  • 開発に当たってTOTOが目指したのは、大便器の節水だけではなかった。水洗トイレの洗浄は、便器本体を洗浄して汚物を排出するだけでない。排水本管まで汚物を搬送して完了する。システム全体の無駄を突き詰めていく挑戦が始まった。このために、TOTOが投入した資金と人材は膨大であった。まず実証実験を行うために、6階建の仮設ビルが建てられた。そこには、排水管から下水道に至るまでの排泄物(代用汚物)と水の流れを人の目で捉えることができる、樹脂製の透明な配管が設置される。ここに大便器から水と代用汚物を流す実験を繰り返してデータを採ったのである。こうした努力の結果、1976(昭和51)年5月、新たな節水消音便器「CSシリーズ」が発売を迎えた。結果は、サイホンゼット便器が20ℓから13ℓ、サイホン便器が16ℓから13ℓ、洗落とし便器が12ℓから8ℓと、約30%もの大幅な節水が実現された。
  • 実証実験を行うために建てられた6階建の仮設ビル
  • 第3章 アメリカ向け初代6ℓ便器の開発
  • アメリカで日本でもまだ製造していない6ℓ便器に挑む
  • 1980年代の終わり頃、TOTOはアメリカ市場に進出する。水資源環境が最も厳しい西海岸の諸州や南部のテキサス州などでは1980年代からすでにトイレの節水は求められており、節水形便器への交換奨励策や一部地域での規制も行われていた。ところが、アメリカ国内ではそれに対応できる製品は、まだほとんど流通していなかった。これは明らかにチャンスであった。
開発は、1986(昭和61)年に発売されたロマンシアシリーズのサイホン便器の構造を参考に進められ、1988(昭和63)年、品番「CW703」として完成した。この成功を受けてアメリカでのビジネスは本格化。さらなる洗浄能力の向上に向けた開発も進められる。
  • CW703 CW703の日本での洗浄実験風景 アメリカでの洗浄実験の様子
  • 日本で積み上げてきた技術で6L洗浄を実現
  • 第4章 THE BENKI プロジェクト
  • 最高水準の次世代型便器「ネオレスト」への道
  • 「便器でない便器を作れ」。従来の固定概念を捨ててTOTOが持つ技術を結集し、機能、デザインすべてにおいてお客様に最高水準の満足を約束できる、次世代型便器を提供しようという「THE BENKI プロジェクト」が1988年に始まった。ネオレストEXとして結実するこのプロジェクトには最新のウォシュレット機能など様々な新しい技術が盛り込まれたが、最大の特徴はなんといってもタンクレスを実現したことである。それを可能にしたのが、シーケンシャルバルブ方式(図1)というまったく新しい洗浄方式だった。3段階の水の動きをコンピューター制御で実現したのである。これにより、ネオレストEXでは8ℓまでの節水が可能となった。
  • 図1 シーケンシャルバルブ方式 ネオレストEXと開発者 ネオレストEX
  • 水の動きをコンピューター制御したタンクレスを実現
  • 第5章 衛生性を犠牲にしない節水のさらなる追求
  • 「ラクしてキレイ」を実現する革新的な技術の誕生
  • 1999(平成11)年に発売されたレスティカシリーズには、画期的な防汚技術である「セフィオンテクト」が初めて搭載される。洗浄水量も8ℓとなり、NEW CSシリーズから20%もの節水が実現された。だが、あくまでもレスティカシリーズの訴求ポイントは「ラクしてキレイ」という、お手入れのしやすさであった。2002(平成14)年には大便器の構造革命ともいえる、「フチなしトルネード洗浄」が NEWネオレストに初搭載される。便器のお手入れのしやすさ、清潔さが市場に求められる時代であった。
  • 防汚技術「セフィオンテクト」 陶器表面の凹凸を100万分の1㎜のナノレベルでツルツルに。汚れが付きにくく落ちやすいTOTO独自の技術。 フチなし
トルネード洗浄 渦を巻くようなトルネード水流が、少ない水を有効に使ってしつこい汚れも効率よく洗浄。
  • 第6章 高精度流体解析技術の導入
  • コンピューターによる流体解析/CAEをいち早く導入
  • 2006(平成18)年、ネオレストX/A/D、ピュアレストEX、ピュアレストQRなどの6ℓ便器を相次いで発売する。実はその研究・開発は1998年から2003年にかけて進められていた。そのツールとなったのが、3次元流体解析技術であった。商品の強度設計や流れ設計などに不可欠となる、コンピューターによる固体や流体のシミュレーション技術として、CAE(Computer Aided Engineering)がある。TOTOでは1990年頃からCAEの導入を開始した。CAEは単一流体の解析に多く用いられているが、TOTOのように水、空気、固体の多相流が複雑に絡み合う商品の解析は現状では珍しいといわれている。それだけに、流体の動きを突きとめる研究に寄せられる期待は大きい。
  • CAE技術を用いた解析結果の検証
  • TOTOの商品に適用可能な流体解析ソフトを自社開発
  • 第7章 終わりなき挑戦
  • 水まわりメーカーの責任として、節水へ挑戦し続ける
  • 2010(平成22)年にはGREEN MAX 4.8として4.8ℓ機種を投入、2012(平成24)年にはネオレスト・ハイブリッドシリーズでついに3.8ℓ洗浄を実現する。2012(平成24)年からは東京工業大学が運用するスーパーコンピューター「TSUBAME」を用い、「陶器表面の薄膜の流れ」および「洗浄時の水の跳ね」に最適化した新計算手法を開発している。TOTOが節水に取り組んできた背景には、節水を含めた人々の地球環境への関心の高さがあった。節水は人々に求められてきたのである。もちろん洗浄水が減っていくことに不安がないわけではない。だが、その解消も含めて、水まわりメーカーが取り組むべき課題として節水は存在している。それこそが、TOTOが自らの開発体制を変化させながら取り組み続けてきた“終わりなき挑戦”なのである。
  • スーパーコンピューター「TSUBAME」による解析
  • 世界に先駆けたTOTOの節水への取り組み