建築への要求の背後にあるナニモノかを形にしたいと望みつつも、完成した仕事に心からの満足を覚えることがない時期であった。敷地が狭すぎるだの、予算が少ないだのと心得違いの言い訳をつぶやく時もあった。そのような欝々としていたころの雨上がりの春の日、沖縄の民家の裏庭、3房に仕切られた古い石造の豚舎に這ってみた。二つの仕切り壁に開けられたくぐり穴のサイズが中・小とちがっているではないか。なぜ?
3房のそれぞれが親、兄、弟豚の部屋で、弟豚はどちらへも自由に行け、兄は弟の部屋には行けない。これは小さい豚の餌を横取りさせない配慮に違いない。人の言葉を使えない豚のこころを聞き取り、このように豚舎を作った昔の石大工。きちんと仕事をすれば言い訳などを考える余計な時間はいらない、という自明のことが頭をよぎる。「玉寄邸」はそのような出会い直後の設計。手ごたえの記念に小さなコンクリートの虹をかけた。