1968年に始まったスチューデント・パワーによる世界的な潮流は、当然のことながら我国にも影響を及ぼした。これは建築教育、あるいは建築の在り方そのものを根底から問い直す運動でもあり、「建築とは何か? 創るとは何か?」などといった問いかけが激しく飛び交っていたことを記憶している。
その時、私の脳裏に強く焼きついた事象が二つあったように思う。一つは様々な分野で起こった価値の転換に伴う、仏教的な「無常感」とも言える感覚である。もう一つは、混乱した時代背景のなかで見失われかけていた規律の探求とも言える「幾何学的純粋性」である。その結果、立方体、シンメトリーなど極めてシンプルな構成がこの時期の主要なコンセプトとなった。
「涅槃の家」は1972年に発表した作品である。この作品はその後の「無為の家(72年)」「四華の商(74年)」「PL学園幼稚園(74年)」「サイコロの主題による家(74年)」「仮面の家(74年)」「段象の家(76年)」「モニュメント玉造(76年)」などの作品の原点ともなるべきものである。