2024年3月27日
#浴室プロモーション
お風呂をもっと快適でリラックスできる空間にしたい…そんなニーズにお応えする、TOTOのシステムバスのアイテム、「お掃除ラクラク ほっカラリ床」。汚れが落としやすいだけでなく、感触がやわらかく、温もりを感じるので、膝をついて体を洗えるという特長も。これまでは味わえなかった感触の床はなぜ実現できたのか、開発に携わった原田亮一さんと森井勇次さんに開発時の着眼点や工夫などをお聞きしました。
浴室開発第一部 浴室商品開発グループ
主任技師
原田 亮一 さん
2002年に入社以来、22年にわたって開発に従事。排水トラップや「らくポイヘアキャッチャー」などの開発に携わったのち、「ほっカラリ床」の開発を担当。
高分子技術部 樹脂技術第二グループ
グループリーダー
森井 勇次 さん
大学では合成化学、物質創成の研究を専攻。2010年に入社後は、トイレまわりの汚れメカニズムの研究に従事したのち、ほっカラリ床では、その知見を活かした防汚素材の開発に携わった。
現在のほっカラリ床は第四世代にあたるそうですね。開発の最初のきっかけは?
原田さん(以下、原田) 当時、お客様から「翌朝に浴室に入ったら靴下が濡れた」「なかなか床が乾かず、水はけが悪い」という声がありました。浴室の床だから濡れているのはしかたがないというのが業界の常識だったのですが、お客様のためにその業界の常識を打ち破ろう、清潔に気持ちよく使っていただけるように乾きやすい床を開発しようということになりました。1997年ごろからの取り組みです。
どのように課題を解決したのですか?
原田 最初は「水を排水口まで速く導く」という考え方で床の溝や傾斜をデザインしていました。しかし、検討を進める中で、水の流れが速すぎると、水みちの途切れた部分が水たまりとなり、そこが乾きにくくなっていることがわかりました。
そこで、速く流すのではなく、翌朝までに水が流れればよいと発想を転換して、床の表面の溝のパターンを工夫することに。水の流れが途切れないように、床表面の溝をゆっくりつたいながら流れるパターン形状にすることで、床の水を取り残すことなく、すべて排水口に導くようにしたのです。これが言わば第一世代にあたる「カラリ床」です。
第二世代ではどのような改善点がありましたか?
原田 次に課題となったのは床の硬さです。体を洗う時に膝をついても痛くない、床を踏んだときにソフトな感触でほっとするような床を目指しました。ポイントは、床の表皮の部分と発泡ウレタン製の断熱クッション、強度を保つ床パン部分と3つの層で構成したことです。それぞれの層の機能を組み合わせることで、「早く乾く」「ほどよい踏み心地」を実現しました。
これが第二世代となる「ほっカラリ床(旧商品名:ソフトカラリ床)」です。
「ほどよい踏み心地」というのは?
原田 硬いと安心感はありませんが、やわらかすぎても体勢が安定しません。そこで、さまざまな人にやわらかさに関するヒアリングを行い、その結果、「畳のような感触」を目指すことになりました。床の表皮はやわらかくても耐久性が必要です。また、クッション層は繰り返し荷重がかかってもへたらないことが求められます。社内外の知見をフル活用しながら材料を選定し、検証を繰り返すことで実現に至りました。
次の第三世代でテーマになったことは?
原田 断熱性ですね。第二世代で床は複層構成(表皮層+断熱クッション層+ベース層)になりましたが、ベース層をさらに、断熱性の高い床パンと剛性のあるベースフレームに分けました。これで、以前よりも冷たさを感じにくい床になりました。早く乾いて、やわらかくてヒヤッとしない、この「W断熱ほっカラリ床」は高い評価をいただきました。
最新の第四世代、「お掃除ラクラク ほっカラリ床」のテーマは?
森井さん(以下、森井) その名の通り、清掃性ですね。「お風呂のお掃除が大変」というお客様の声は、私たちとしても大きな改善点として認識していました。第三世代までは、排水のために表面の溝や床の構造を工夫して機能を高められました。一方で床の表面に溝がある以上、汚れがたまってしまいます。
そこで私の専門分野である素材、材料で解決できないか検討しました。
どのような工夫で清掃性を高めたのですか?
森井 床の表面に親水性を持たせる処理を施しました。これによって床の表面が水となじみやすくなり、床の皮脂汚れの下に水がもぐりこんで汚れを浮かせるようになりました。また、床に落ちた水は表面の溝に呼び込まれて広がり、排水もよりスムーズになっています。
ただ、親水性があるとものを吸着しやすくなるという面もあります。そこで、床の表皮について水あかなどがこびりつかないようにするにはどのような配合で樹脂を構成したらいいか、という模索もしましたね。
原田 パターンを構成する要素は、形状、配置、溝深さ、表面テクスチャなど、さまざまです。それらを微調整しながら、清掃しやすいパターンになるよう、設計を心掛けました。材料と形状の両面から取り組むことで、皮脂汚れ、水あか、泥汚れなど、いろいろな種類の汚れが付着しにくく、掃除しやすい床ができたのです。
「お掃除ラクラク ほっカラリ床」の開発で苦労した点は?
原田 床の設計を行ううえで、清掃性以外にもデザイン性、排水性、成形性などさまざまな要件があり、それらのバランスをとるのが難しい点でした。そのなかでも排水性に関しては、社内の流体解析を行う部門(CAE技術グループ)と協力し、水の流れを定量的にとらえて、効率的に開発を進めていきました。
森井 購入されたお客様ががっかりされないように、商品がきちんと想定通りの機能を果たすのか、品質については徹底的に追求しましたね。商品を量産しても品質が変わらないか、製造時の季節などに品質が左右されないか。TOTOが目指す品質を保てるように、製造の現場にも立ち合って、課題にひとつひとつ向き合って解消に努めました。
※CAE :「Computer Aided Engineering」の略で、日本訳は計算機援用工学。力や流体などの物理現象について、コンピューター上でシミュレーション、解析を行うことを指す
お互いの研究結果や業務面での課題などはどのようにすり合わせていったのですか?
森井 各々の役割を明確にし分業しながら、最後の段階ではしっかりと融合するように密に連絡を取り合いましたね。特に量産に向けての製造現場での立ち合いは重要でした。試験段階ではうまくいっても、いざ量産に向けて動き出すとうまくいかない部分もあったりするものなので。私も原田さんも、専門領域や経験が異なるので、課題や成果を共有して同じ方向に進んでいったように思います。
実際に製品が完成してどのような手応えを感じていますか?
森井 樹脂製品は一般的に、加工しやすいという利点がある反面、熱や紫外線に弱い、劣化すると変色しやすいという弱点もあるので、10年、20年と使う水まわりではより慎重な材料設計を行わなければならないという側面がありました。しかし、今回、長期の使用や量産製造を想定して清掃性、耐久性、意匠性、品質の均一性などの面で納得のいく床ができました。原田さんと一緒に頑張ったかいがありましたね。
開発にあたってはどんなことをヒントにしましたか?
原田 開発の仕事では大小さまざまな課題がいくつも浮かび上ってきます。ヒントがほしいときは、ホームセンターや100円ショップなどを散策しますね。いろいろな種類のプロダクトを手に取ることができるので、その仕組みや構造を読み解きながら、ものづくりの考え方を参考にしています。
森井 当社の場合、水まわり製品が中心ですから、水に関わる製品はなんでも参考になります。たとえば、水に濡れたら模様が出てくる傘とか、どういう技術を使っているのかなとか。あと社内のバスルーム以外の製品でも、汚れがどのように付着するのか、どうしたら清潔さを維持できるのか、というメカニズムには興味があります。その根本的な原理を自分なりにつかめると、そこから何かヒントを得て、発想を飛躍させることができますね。
今後、システムバスはどのように発展していくと思いますか?
原田 ほっカラリ床は、従来の硬い床よりも加工しやすかったのですが、さらに親水の特殊処理を施したことでパターン形状の設計自由度も向上しています。これらのメリットを生かすことで、今後はもっと新しい意匠表現ができ、これまでの浴室のイメージを覆すような進化を遂げる可能性を感じています。
森井 いま浴室は、くつろぎの場としてお客様に求められていると思います。そのくつろぎやリラックスのベースとなるのが、清潔性であり、意匠性ではないでしょうか。きれいな浴室、美しい空間であれば、何も気にすることなく、心身が休まりますよね。そのための空間づくりに貢献していきたいと思っています。
編集後記
TOTOのシステムバスの魅力のひとつである「お掃除ラクラク ほっカラリ床」。私たちがバスルームに求める掃除しやすさ、乾きやすさ、適度なやわらかさなど、両立が難しそうな性能がすべてバランスよく詰め込まれている印象。多くの人の手と最新のテクノロジーに裏打ちされた人と暮らしに優しいこの不思議な感触の床は、ぜひ一度ショールームなどで体験していただきたいですね。
編集者 介川 亜紀
取材・文/渡辺 圭彦 写真/後藤 徹雄(特記以外) 構成/介川 亜紀 2024年3月27日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。
次回予告
次回は「お掃除ラクラク ほっカラリ床」を紐解く記事の第2弾。TOTOのシステムバスの特長のひとつでもあるこの床について、「脳科学」の視点から心地よさと脳活動の関連を分析した研究のプロセスと結果を紹介します。
2024年4月24日公開予定。ご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからの『開発ストーリー』を充実させたく、皆さまのお声をお聞かせください。
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